血液凝固因子の正常な分泌に必須なカーゴ受容体の全長構造をクライオ電子顕微鏡によって解明

従来の定説を覆す四量体の全長構造と亜鉛による制御機構を解明

ポイント

・血液凝固因子などの分泌に必須であるヒト由来カーゴ受容体ERGIC-53とその補助因子MCFD2との複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析(注1)により世界で初めて決定しました。
全長ERGIC-53は、従来提唱されていた六量体ではなく、四葉のクローバーに類似した四量体構造を取り、曲がったり伸びたりする柔軟な構造変化を通して、カーゴを輸送する仕組みが分かりました。
・ERGIC-53-MCFD2複合体のヘッド領域の高分解能構造解析から、MCFD2に亜鉛結合部位があることが初めて明らかになり、カーゴ輸送における亜鉛を介した新たな制御機構が明らかになりました。

概要

血液凝固因子などの分泌タンパク質は、細胞内の小胞体(注2)において合成された後、積荷(カーゴ)として特異的なカーゴ受容体によって認識され、効率よく細胞外へと分泌されています。カーゴ輸送の異常は、血液性疾患などの様々な遺伝性疾患の原因となることが知られています。カーゴ輸送 の中心を担うカーゴ受容体として、ERGIC-53とその補助因子MCFD2が約40年前に同定され、ERGIC-53の糖鎖を認識する領域(ドメイン)を中心に構造機能研究が進められてきました。しかしその全長構造は未決定で、全長において多様なカーゴを認識し輸送する仕組みは未解明のままでした。
 東北大学多元物質科学研究所の渡部聡助教、稲葉謙次教授らの研究グループは、クライオ電子顕微鏡単粒子解析を用いて、全長ERGIC-53と補助因子MCFD2との複合体の立体構造を世界で初めて決定しました。構造解析の結果、全長構造はヘッド領域、ストーク領域、膜貫通領域で構成されており、四葉のクローバーに類似した全体構造をとることが分かりました。また、ERGIC-53の全長構造のダイナミックな構造変化の様子の可視化にも成功し、柔軟な構造変化を利用したカーゴ認識機構が明らかになりました。また、ERGIC-53-MCFD2複合体のヘッド領域を高分解能で構造決定し、四量体形成の詳細な分子基盤が明らかになっただけではなく、MCFD2において新たに亜鉛結合部位があることが分かり、分泌経路下流におけるカーゴの解離が亜鉛によって促進される機構が示唆されました。
 本研究成果は、2024年3月16日に科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。
 本研究成果は東京大学大学院理学系研究科の木瀬孔明特任准教授、濡木理教授、および高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所の米澤健人研究員(現:奈良先端科学技術大学院大学)、清水伸隆教授らとの共同研究により得られたものです。

用語解説

 (注1)クライオ電子顕微鏡単粒子解析
タンパク質の立体構造を高分解能で決定するための手法の一つ。電子線照射による分子の振動や損傷を抑えるために、観測対象のタンパク質を氷薄膜中に包埋し、マイナス180度の低温に保ったまま電子顕微鏡像を観測する。個々の分子像は、様々な向きで氷薄膜に包埋された分子の投影像であり、数十万から数百万分子の投影像を分類・平均化し、各粒子の三次元配向を計算し、統合することで高分解能の三次元構造(平均構造)を構築することができる。さらに平均構造を基準として、三次元の変動性を解析することにより、構築した電顕構造の動的な構造変化を捉える方法も開発されている。
(注2)小胞体
細胞内小器官の一つであり、分泌タンパク質の合成が行われる。小胞体の中には厳正なタンパク質品質管理機構が備わっており、正しい立体構造を形成したタンパク質は下流のゴルジ体へ選択的に輸送される。

研究に関するお問い合わせ先

生体防御医学研究所 稲葉 謙次 教授

詳細

本研究の詳細はプレスリリースをご参照ください。

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