比較社会文化研究院
舘 卓司 准教授
カメムシに寄生するハエの新生態解明。将来的なカメムシ防除利用にも期待
ポイント
・呼吸は重要な生命活動であり、呼吸戦略は生物の生息環境と密接に関係しています。そのため、呼吸戦略を研究することで生物の生態や進化プロセスをより深く理解できます。
・本研究では、カメムシに寄生するヤドリバエの幼虫が、カメムシの体内で呼吸するために自身のフンを固めてシュノーケルを作り、呼吸していることを明らかにしました。この“フン製シュノーケル”はカメムシ寄生の種を中心に複数のヤドリバエで確認されました。
・ヤドリバエの仲間は寄生したホストを最終的に殺してしまうため、農業害虫の密度を抑える働きをしていると考えられています。本研究のように彼らの生態を解明し知見を蓄積することは、ヤドリバエを用いた農業害虫の管理法確立に繋がると期待されます。
概要
多くの生物にとって呼吸は最も重要な生命活動の一つであり、呼吸戦略の研究はその生物のより深い理解に繋がります。ヤドリバエとよばれるハエの仲間はその名の通り他の昆虫の体内に宿る、すなわち内部寄生性を示すグループです。生物の体内は気体の酸素にアクセスするのが難しい環境のため、ヤドリバエのような内部寄生者にとって呼吸法の確立は寄生の成功を左右する重要な問題です。ヤドリバエの幼虫は「呼吸漏斗(ファネル)」と呼ばれる構造体によって外気を取り入れることが知られており、一部のヤドリバエの仲間がもつ幼虫の体を覆う鞘型の呼吸漏斗はホストの免疫作用を利用して作られることが知られていました。
今回、九州大学大学院・地球社会統合科学府の駒形森さん、九州大学大学院・比較社会文化研究院の小川浩太助教 、舘卓司准教授らのグループは、カメムシに寄生するヤドリバエの幼虫が自らのフンを利用し、既知のメカニズムとは異なる独自の方法で呼吸漏斗を形成していることを突き止めました。本研究ではまずカメムシに寄生するマルボシヒラタヤドリバエの飼育実験系を立ち上げ、呼吸漏斗の形成過程を様々な組織形態学的解析手法を用いて多角的に解析しました。その結果、このハエの幼虫は、1)寄主の体内で1本につながったフンを排泄し、それを体に巻きつけていくことでコーン型の呼吸漏斗を形成していること、2)幼虫の肛門付近にはフンを固めてちぎれないようにするためと思われる分泌腺の存在が明らかとなりました。さらに、他のヤドリバエの呼吸漏斗も解析し、この“フン製シュノーケル”がカメムシに寄生するヤドリバエの仲間を中心にある程度広く見られるものであることが分かりました。
ヤドリバエの呼吸様式に関する研究がさらに進めば、ハエ類が寄生性を獲得するに至った進化的な経緯をより詳しく考察することができると期待されます。また、農業害虫であるカメムシに寄生するヤドリバエの生態解明は、ヤドリバエを防御資材として利用するための第一歩とも言えます。
本研究成果は、2024年4月17日付(日本時間)でイギリスの国際誌 Bulletin of entomological researchに発表されました。
研究に関するお問合せ先
比較社会文化研究院 小川 浩太 助教
比較社会文化研究院 舘 卓司 准教授
詳細
本研究の詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。