標高9000m相当の低大気密度を模擬した環境下で羽ばたき翼型飛行ロボット(ロボハチドリ信州)のリフトオフに成功

~ 羽ばたき翼型飛行ロボット(ロボハチドリ信州)のリフトオフに成功! ~

ポイント

・これまでにマルハナバチやオオカバマダラの高高度での飛行が確認されており、マルハナバチは翼を大きな振幅で羽ばたきながら飛翔し、オオカバマダラは体の姿勢と飛行速度を調整して飛んでいることが観察されていましたが、羽ばたき翼型飛行ロボットでの飛行は実現されていませんでした。
・飛翔体まわりの流れ場の特性は、レイノルズ数*1によって特徴付けられます。もし、翼の大きさと運動速度が一定の場合、大気密度が減少するとレイノルズ数も減少します。このレイノルズ数が低い飛行環境下では、固定翼や回転翼によって生成される空気力は流れの剥離と渦の放出により低下する可能性が高くなります。しかしながら、昆虫や鳥は通常その低レイノルズ数領域(O(10²)–O(10⁴))で飛行しており、この低レイノルズ数の流れ特有の空気力学的メカニズムを効果的に利用し、大きな空気力を生成していることが分かっていました。
・本研究の実験の結果から羽ばたき翼型飛行ロボットが同じ大きさの飛翔生物と比べて重量が大きいながらも、機体と翼の重量比、翼のアスペクト比*2、レイノルズ数、無次元周波数*3などの無次元数と翼の羽ばたき運動を類似させることで、地上でも高高度でも生物羽ばたき飛行メカニズムを利用して大きな空気力を得ることができ、大気密度が地上と比較して約3分の1と低くなってもリフトオフが可能であることを示しました。

概要

 昆虫・鳥・コウモリなどの飛翔生物は、巧みな翼の羽ばたき運動と時には胴体や尾翼の動きを利用し優れた飛行を行います。なかでも、翼面上に形成される前縁渦が地上の飛翔生物の自重を支える空気力発生の共通メカニズムとして理解されています。地上より空気密度の低くなる高度数千メートル以上の標高の高い場所に生息する飛翔生物は、飛行の際、自重を支えるために地上より大きな空気力が必要になると言えます。しかし、この揚力の補償メカニズムを含む高高度での生物飛翔のメカニズムの詳細は現在も明らかになっていません。
 さらに、これまで生物を規範とした様々なタイプの羽ばたき翼型飛行ロボットが開発されてきました。しかし、地上での飛行に注力されており、空気密度の低下に伴う揚力低下が起こる過酷な環境下の高高度での羽ばたき翼型飛行ロボットの開発は行われていませんでした。空気中(海面)や水中と比べて流体の密度が低い状態での実験は難しく、高高度飛行を理解するために不可欠な密度の低い中で飛行する生物とロボットの動きを精度良く観察することができませんでした。
 そこで、信州大学繊維学部の青野光 准教授、東北大学大学院工学研究科の浅井圭介 名誉教授、野々村拓 准教授、小澤雄太 特任助教(現 青山学院大学理工学部 機械創造工学科 助教)、九州大学大学院総合理工学研究院の安養寺正之 准教授(現 株式会社DigitalBlast所属)、前橋工科大学工学部の安藤規泰 准教授、米国アラバマ大学ハンツビル校のKang准教授らの研究グループは、東北大学流体科学研究所所有の火星大気風洞の減圧チャンバーを用いて高高度飛行を模擬した低密度環境を構築し、その環境下においてハチドリ規範型羽ばたき翼型飛行ロボット(ロボハチドリ信州)の翼が発生する空気力と翼面形状の同時計測を行いました。
 本計測により、飛行ロボットの翼の面積を地上のモデルに比べて大きくしゆっくり羽ばたくことにより、大きな羽ばたき振幅と飛翔生物の翼の回転角変化に近い受動的な回転角変化を得られることを示しました。この結果、大気密度が地上と比べて約3分の1の 低大気密度環境下においても地上での空気力発生機構による大きな揚力の発生を実現させ、羽ばたき翼型飛行ロボットの世界初のリフトオフ実験に成功しました。本結果は、羽ばたき翼特有の空気力学的メカニズムの活用による低密度・高高度環境下での飛行の実現可能性を示すものとなり、生物の高高度飛行メカニズムの理解と更に低密度となる火星大気環境などでの羽ばたき翼型飛行ロボットの飛行実現に繋がる重要な研究成果と言えます。
 なお、本成果は6月2日付(イギリス現地時間)でScientific Reports電子版に掲載されました。

用語解説

1. レイノルズ数
流体の慣性力と粘性力の比を示す流体力学的な無次元数
2. アスペクト比
翼の縦横比
3. 無次元周波数
翼の角速度と翼の代表翼弦度の積と翼の先端速度もしくは前進速度の比を示す無次元数

詳細

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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