カーボンナノチューブで植物に遺伝子を送り込む

〜 植物ミトコンドリアの効率的な遺伝子改変が可能に 〜

概要

 理化学研究所(理研)環境資源科学センターバイオ高分子研究チームのサイモン・ロウ特別研究員、沼田圭司チームリーダー(京都大学大学院工学研究科教授)、京都大学大学院工学研究科の土屋康佑特定准教授、宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの児玉豊教授、九州大学大学院工学研究院の藤ヶ谷剛彦教授らの共同研究グループは、機能性ペプチド[1] を表面に結合したカーボンナノチューブ[2]を担体[1] とすることで、植物細胞内のミトコンドリア[3] へ効率的に遺伝子を輸送する手法の開発に成功しました。

 本研究成果は、農作物をはじめとしたさまざまな植物を改変するための遺伝子改変技術に応用することで、環境への耐性を持つ改良植物種の作製や作物生産量の向上に貢献すると期待できます。
 今回、共同研究グループは、カーボンナノチューブを担体に用いて、植物細胞のミトコンドリアを標的として遺伝子を輸送する技術を開発し、植物ミトコンドリアの遺伝子組換え[4] に成功しました。ミトコンドリアの遺伝子が改変された植物では、根の成長が促進されることを明らかにしました。

 本研究は、科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(5月16日付:日本時間5月16日)に掲載されました。

用語解説

[1] 機能性ペプチド、担体
アミノ酸の配列を適切に設計することで、植物細胞内への物質輸送に必要となるさまざまな機能を持たせたペプチド。遺伝子を輸送する担体として用いることができる。例えば、細胞膜を透過して細胞内へ入るために必要な細胞透過性ペプチドや、ミトコンドリアに選択的に移行するために必要となるミトコンドリア移行ペプチドなどがある。担体とは、植物細胞内へ物質を輸送する際に、物質を固定して運ぶ役割を担う物質のこと。
[2] カーボンナノチューブ
炭素のみからなる直径が数ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)~数十nm程度の管状の物質で、一層の管からなる単層カーボンナノチューブと複数の管が同軸上に重なった多層カーボンナノチューブが存在する。炭素の並び方によって多様な電子的・光学的性質を持つ。本研究では単層カーボンナノチューブを用いた。
[3] ミトコンドリア
ほとんどの真核生物の細胞中にある、直径が1マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)程度の細胞小器官のこと。脂質からできている二重膜で形成されており、生物が呼吸するのに必要となるエネルギーを生産する役割を持つ。植物細胞では、核、ミトコンドリア、葉緑体にそれぞれ独自のDNAが含まれる。
[4] 遺伝子組換え
植物の細胞内にある元のDNAに、外来の新たな遺伝子を挿入すること。これにより、植物が本来持っていない性質を新しく植物に付け加えることができる。

詳細

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