迷チョウのルーツを初めて科学的に解明

~遺伝情報のデータバンクと国内随一の九州大学昆虫標本コレクションを活用~

ポイント

・本来の生息地から外れた場所で見つかり、在来の個体群に影響を与える可能性もある「迷チョウ」のルーツを解明することは、生態学や島嶼生物学において大きな意義を持ちます。
・本研究では、宮古島で発見された迷チョウのルーツを初めて遺伝情報と形態情報に基づき科学的かつ客観的に示しました。
・種数が多く同定も難しい昆虫では、既存の遺伝情報を有効活用するために分類学的知見からの‘校正’が必要であり、この新たな役割とともに分類学の重要性は再び高まってきています。

概要

 台風や季節風などの影響によって本来の生息地とは異なる場所で発見されるチョウは「迷チョウ」と呼ばれ、日本列島ではこれまでに100種以上の迷チョウが記録されています。迷チョウは侵入先に定着したり在来種と交雑したりすることで生態系に影響を与える可能性があるため、そのルーツ(原産地)を明らかにすることは重要です。
 今回、九州大学大学院比較社会文化研究院/農学研究院附属昆虫科学・新産業創生研究センターの小川浩太助教は、宮古島で発見された迷チョウが、中国大陸に生息するクジャクアゲハPapilio bianorの原名亜種 (※1) ssp. bianorであることを遺伝解析および形態解析で明らかにしました。
 小川助教は、宮古島での調査中にカラスアゲハに似たチョウを発見・捕獲しました。宮古島にはカラスアゲハの仲間は分布していないため、そのルーツを調べることにしました。まずはNCBI (※2)の遺伝子データバンクからメタデータ(※3)を基に信頼できるカラスアゲハ類14種(亜種)41個体分のND5遺伝子 (※4)の配列データを判定・抽出しました。これらのデータと宮古島で捕獲された個体の遺伝情報を比較し、宮古島の個体がクジャクアゲハであると同定しました。続いて、国内随一の九州大学所蔵の昆虫標本コレクションを利用し詳細な形態比較を行うことで、宮古島の個体がクジャクアゲハのなかでもどの亜種に該当するかを調べました。その結果、宮古島で採集された個体はクジャクアゲハの中でも中国大陸に産する原名亜種であること、すなわち中国大陸から飛来したという事を突き止めました。
 本研究は初めて科学的な根拠に基づき迷チョウのルーツを明らかにした研究です。本研究成果は、日本鱗翅学会刊行の国際誌 Lepidoptera Scienceに2022年9月9日(金)に掲載されました。

用語解説

(※1) 原名亜種
同一種であるものの、分布域の異なる複数の集団がなんらかの形態的・生態的特徴で互いに区別できるとき、学名を付けて亜種として区別します。この亜種のうち、種小名と同じ亜種名を持つものを原名亜種もしくは基亜種と呼びます。
(※2) NCBI
アメリカ国立生物工学情報センターNational Center for Biotechnology Informationの略。バイオテクノロジーや分子生物学に関連する一連のデータベースの構築及び運営、そして研究に用いられるソフトウェアの開発を行っています。本研究ではGenBank DNA配列データベースを利用しました。
(※3) メタデータ
あるデータに付随するそのデータ自身についての情報や付加的なデータのこと。今回は登録されている配列情報の元となった個体がどの地域で採集されたものか分かるもののみを使用しました。
(※4) ND5遺伝子
NADH dehydrogenase subunit 5遺伝子。ミトコンドリアにある遺伝子でアゲハチョウ類では本遺伝子に基づく系統解析が行われており、多数の配列情報が入手可能であるため本研究でターゲットとしました。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

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