水素誘起金属-絶縁体転移に伴う電子状態変化の直接観測に成功

~新たな機能性水素化物材料の開発につながる可能性~

工学研究院
河江 達也 准教授

ポイント

・高濃度に水素を吸蔵した金属は多彩な性質を示すが、その微視的な起源については十分に解明されていなかった
・マイナス253℃で液体水素からイットリウム金属(※1)内に水素を吸蔵させながら、生成水素化物の電子状態の直接観測に初めて成功した
・水素化物の電子物性においても電子相関が重要な役割を担うことを明らかにすることで、今後の機能性水素化物材料の開発に新たな指針を示すことが可能となった

概要

高濃度に水素を吸蔵した金属に超高圧を印加すると室温近傍でも超伝導転移が観測されるなど、金属水素化物が示す多彩な性質は様々な先端科学分野において利用が期待されています。今回注目したイットリウム水素化物では、水素濃度の上昇とともに金属-絶縁体転移が出現することにより、電気伝導性や光学的性質が大きく変化することが知られていました。しかしどのような機構でそのような大きな物性の変化が出現するのか、その微視的な起源の解明は長年の課題でした。

九州大学大学院工学研究院の河江達也准教授と宮川一慶元博士大学院生(令和5年修了)、志賀雅亘助教、稲垣祐次元助教(現:岡山理科大学准教授)の研究グループはマイナス253℃(20ケルビン)という極低温で液体水素からイットリウム金属内に水素を吸蔵させながら、生成された水素化物の電子状態の変化を直接観測するという独自に開発した実験方法を用いて、水素濃度の上昇に伴う詳細な物性変化を測定しました。測定の結果、イットリウム水素化物の電子状態は金属状態から絶縁体的状態に連続的に変化していることを初めて明らかにしました。この結果は電子相関効果(※2)が水素化物の電子物性に重要な役割を担うことを示しており、金属水素化物が示す多彩な電子物性の解明に役立つだけでなく新たな機能性水素化物材料の開発につながる成果と期待されます。

本研究成果は米国物理学協会発行の学術誌「Low Temperature Physics」のオンライン版に2025年7月1日(火)付で公開され、その重要性から「Editor’s Pick (注目論文)」にも選出されています。

研究者からひとこと

本研究ではT ~ 20Kにおいて水素が金属内部へ吸蔵する現象を観測していますが、これは水素が量子力学的なトンネル効果によって金属内部に侵入することを意味します。水素はエネルギー関連研究から機能性水素化物材料の開発に至るまで非常に幅広い分野で注目されていますが、このような水素の示す多彩な性質を理解する上で、水素の持つ強い量子力学的な性質を理解することが不可欠であることを、本研究を通してあらためて感じました。

用語解説

(※1) イットリウム金属
イットリウム金属は、LEDの赤色蛍光体の材料やYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー、高温超伝導体など、さまざまな機能性物質の材料として使用されています。このことからも分かるように、イットリウムの化合物は多様な物性を示します。

(※2) 電子相関効果
電子相関効果は、複数の電子が互いに反発し合いながら同時に運動することによって生じる現象であり、バンド理論に基づく平均場近似(例:ハートリー・フォック法)では十分に記述できない部分を指します。

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工学研究院 河江達也 准教授

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