2つの教師なし機械学習の連携によるアニオン交換膜の材料マップの作成

工学研究院
加藤 幸一郎 准教授

研究者による新規材料の設計を効率化し、広範囲な材料の開発加速へ貢献

ポイント

・機能性高分子 (何らかの特別な機能を有する高分子材料) に対してデータ科学手法を取り入れた研究が増えつつあるが、物性予測精度の向上に注力したブラックボックスのモデルが多く、研究者による分子設計をサポートするようなモデル開発はほとんど行われていない。
・本研究では、機能性高分子の中でも燃料電池や水電解装置(※1)などの中核部材であるアニオン交換膜(※2)を対象に、既報の化学構造情報を収録した独自データベースを構築し、教師なし機械学習(※3)手法である主成分分析(PCA)(※4)とUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)(※5)を連携することで世界初のアニオン交換膜材料マップの作成に成功した。
・アニオン交換膜材料マップを用いることで構造・性能を客観的に把握することができ、研究者の知識・経験に材料マップを組み合わせることで思考を深め、新規材料の効率的な設計が期待される。さらに、マップ作成手法は他材料への応用も可能であるため、様々な材料の研究開発加速に貢献することが期待される。

概要

 近年のデータ科学の発展にともない、化学・材料分野でもデータ科学を融合する研究が活発に行われています。エネルギー、環境、バイオ等の多方面で社会を支える基幹材料群である機能性高分子分野への適用も研究されはじめていますが、構築された機械学習モデルの多くはブラックボックス化しており、機械学習単独での利用が想定されているため、研究者の知識・経験をサポートして新材料設計を効率化する様なモデル開発は行われていませんでした。
 九州大学大学院工学研究院の加藤幸一郎准教授、藤ヶ谷剛彦教授および同大学工学府博士課程2年のPhua Yin Kan氏らの研究グループは、燃料電池や水電解装置の中核部品を担うアニオン交換膜材料を対象に、2つの教師なし機械学習モデルを連携させることで化学構造情報に基づく材料マップを作成しました。さらに、マップ上の各材料データ点をアニオン伝導度(アニオン交換膜の重要物性)の値に応じて色付けることで、多様なアニオン交換膜のアニオン伝導度と化学構造の特徴・関係性を明らかにし、材料マップを用いた材料設計の効率化を提案しました。
 研究者は自身の知識・経験に加えて今回作成した材料マップを参照することで、化学構造と物性の関係性を俯瞰しながら自身の思考を深め、効率的に高性能な材料の設計・開発に取り掛かることができます。また、マップ作成手法は汎用性があり、様々な材料の開発を加速させる波及効果が期待できます。
 本成果は、2024年07月15日にWiley-VCHが発行する国際学術誌「ChemElectroChem」にオンライン掲載されました。

用語解説

(※1) 水電解装置
電気エネルギーにより水を水素と酸素に分離する装置。

(※2) アニオン交換膜
イオンを選択透過させるイオン交換膜の1種であり、陽イオンを交換するものを「カチオン交換膜」、陰イオンを交換するものを「アニオン交換膜」と呼ぶ。

(※3) 教師なし機械学習
学習データに対して正解ラベルを与えない状態で学習できるモデルである。データセットの特徴的な情報を抽出することに長けている。

(※4) 主成分分析(PCA)
教師なし機械学習の一種。高次元データセットを線形的に集約して新たな変量である主成分を作成する手法である。

(※5) Uniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)
教師なし機械学習の一種。高次元データセットを非線形的に集約して新たな変量である「埋め込み表現」を作成する手法である。

お問い合わせ先

工学研究院 加藤 幸一郎 准教授

詳細

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