生命がもつ時計の「0.1ナノメートルの針」が動く瞬間

―時計タンパク質 KaiC のリン酸化反応メカニズムの解明―

先導物質化学研究所
森 俊文 准教授

概要

自然科学研究機構分子科学研究所の古池美彦助教、尾上靖宏研究員、斉藤真司教授、秋山修志教授、九州大学先導物質化学研究所の森俊文准教授らの研究グループは、生物が体内で時間を計る仕組みである「体内時計」では、「時計の針」を動かすかのように化学反応の進み具合を調節するタンパク質のメカニズムが働いていることを解明しました。本研究は、「タンパク質に秘められた、化学反応をあえて止めたりタイミングを見計らって進めたりする仕組み」を解明する学問的意義が極めて高い研究成果です。

本研究は、米国科学アカデミーが発行する国際学術誌「PNAS Nexus」に、2025年4月28日に掲載されました。

研究の成果

研究グループは、KaiA・KaiBの作用を受けながら時計として機能しているときのKaiCではなく、KaiA・KaiBと混合しない条件でKaiCのみに着目することにしました(図1右)。この一見時間を計っていないように見える単独状態のKaiCにはリン酸を結合する能力がないのではないか、とこれまでは考えられていました。本研究を通して、研究グループは非常にゆっくりながらもKaiCがリン酸を結合できることを突き止めました。これはKaiAやKaiBが混在する複雑な条件ではなく、KaiCのみが存在するシンプルな環境でリン酸の結合、すなわち針が動くメカニズムを調べることができることを示していました。

そこでX線結晶構造解析という手法で明らかにしたKaiCの0.1ナノメートルレベルの内部構造を調べ、リン酸が結合する過程を観察すればそのメカニズムが解き明かせると考えました。研究グループは、計算機内でKaiCとリン酸の結合過程を再現することを試み、分子シミュレーション(1) によって、リン酸とKaiCが互いに動きながら徐々に近づいていく様子を調べました(図2)。リン酸がKaiCに結合する過程を詳細に解析したところ明らかになったのは、KaiC内部に存在するグルタミン酸やアルギニンといったアミノ酸の配置の変化がリン酸結合の合図になっているということでした(図2右)。すなわちKaiCには「針を止めておき、タイミングを見計らって針を動かす」ようなメカニズムが備わっていたのです。

シアノバクテリアの時計タンパク質KaiCのリン酸化にとどまらず、必要なときに化学反応を進め、また不要なときには止めておくといった仕組みは、ヒトを含むあらゆる生物の細胞内にあるタンパク質にも備わっている可能性があります。本研究の成果は、タンパク質など生命を構成する分子に秘められた精巧なタイミング制御の一端を解き明かすものです。

用語解説

(1) 化学反応の分子シミュレーション:
実験では追跡できないような細かく速い化学反応の様子を、計算機を用いてシミュレーションするアプローチ。量子力学と古典力学、分子動力学などの理論化学の計算手法を組み合わせることで、化学反応が進行する様子の可視化や、化学反応に必要なエネルギーの算出が可能となる。

詳細

本研究の詳細はこちらをご参照ください。

お問合せ先

先導物質化学研究所 森俊文 准教授

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