重金属を用いずに可視光を紫外光へと高効率変換する分子性材料を発見

~低コスト・持続可能な紫外光生成によるクリーンエネルギー創出・環境浄化~

ポイント

・光触媒による燃料製造・環境浄化システムの高効率化に向けて、重金属を用いずに効率よく可視光を紫外光へとアップコンバージョンする技術の開発が重要
・今回の発見により、重金属フリーな可視光→紫外光へのアップコンバージョンの効率が、従来記録の 8.2% から 20.3% へと大幅に更新された
・低コストかつ持続可能な燃料製造・環境浄化システムへの応用が期待

概要

 波長 400 nm 以下の紫外光は、光触媒と組み合わせることで燃料製造や屋内での消臭・抗菌および環境浄化といった幅広い応用が可能であり、非常に重要です。一方で、地表に届く太陽光に含まれる紫外光の割合は非常に低いため、人工的に発生させる必要があります。
 本研究で、九州大学大学院工学研究院の楊井伸浩准教授、君塚信夫教授、同大学大学院工学府の宇治雅記大学院生、原田直幸大学院生、同大学大学院理学研究院の恩田健教授、宮田潔志助教、同大学大学院理学府の西郷将生大学院生らは、重金属フリーでありながら可視光を紫外光へと高効率にアップコンバージョンする分子性材料を発見しました。三重項-三重項消滅(TTA)*1,2を用いたフォトン・アップコンバージョン(UC)*3により、太陽光に多く含まれる波長 400 nm 以上の可視光を高効率で紫外光へと変換することができれば、光触媒の大規模な利用が可能となり、クリーンな燃料製造や環境浄化システムが実現できることが期待されます。
 本研究では、重金属フリーな可視光から紫外光へのアップコンバージョン効率の従来記録である 8.2% を大幅に更新した 20.3% という高い効率を達成しました。また、従来系では太陽光よりも1000倍ほど強い可視光を必要としていましたが、本系では太陽光と同等の弱い強度でも可視光から紫外光へと変換することが可能です。加えて本系では、従来系の多くで用いられてきたイリジウムやカドミウムといった重金属が含まれていないことから、低コストかつ高い持続可能性が期待されます。今後は光触媒と複合化することで、燃料製造・環境浄化システムへの応用が期待されます。
 本研究成果は、2022年1月10日(月)にイギリスの国際学術誌「Journal of Materials Chemistry C」にオンライン掲載されました。

用語解説

*1)三重項
分子の状態の一つで、スピン多重度 2S + 1 = 3 となるような、スピン量子数 S = 1 の状態(基底状態と励起状態の電子スピンが打ち消しあわない状態を指します。励起三重項状態(T1)から基底一重項状態(S0)への失活はスピン禁制遷移であるためとても遅く、近くの分子にエネルギーを受け渡すことができます。
*2)三重項-三重項消滅(triplet-triplet annihilation, TTA)
二つの励起三重項状態(T1)の分子が衝突することで、一方のエネルギーが他方に移り、エネルギー的により高い励起状態が生成する過程を指します。ここで、T1 の分子二つの持つエネルギーが一つの分子の励起一重項状態(S1)の持つエネルギーより大きいとき(2xET1 > ES1)、TTA を経た後に S1 の一分子が効率よく生成されます。
TTA を起こす発光色素(アクセプター分子)と T1 を効率的に生成する増感剤(ドナー分子)を組み合わせ、フォトン・アップコンバージョンを起こす方法が TTA-UC と呼ばれています。一般的な TTA-UCでは、まずドナー分子が光を吸収し、項間交差(intersystem crossing, ISC)を経て、T1 を生成します。その後、ドナーからアクセプターへの三重項エネルギー移動(triplet energy transfer, TET)により、アクセプターの T1 が生成されます。二分子のアクセプター T1 が拡散・衝突して TTA を起こすことで、ドナー S1 より高いエネルギーを持つアクセプター S1 が生じ、UC 発光が得られます
*3)フォトン・アップコンバージョン(photon upconversion, UC)
低いエネルギーを持つ光を高いエネルギーを持つ光に変換する方法論です。古典的には、第二次・第三次高調波発生、多光子吸収などの非線形光学現象が用いられてきました。近年では希土類元素の多段階励起も多く報告されていますが、高い励起光強度の光が必要となるため、適応範囲が限られています。そこで近年、太陽光程度の弱い光でも駆動しうる三重項-三重項消滅(TTA)に基づく UC 機構が注目を集めています。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

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