パーコレーション理論を新規量子磁性体で初実証 新しい“静的短距離磁気秩序”を発見

工学研究院
河江 達也 准教授

─ 次世代磁気デバイスへの活用に期待 ─

ポイント

・新たな量子磁性体(注1)Cu4(OH)6Cl2を合成し、従来にはない特異な磁気特性を発見しました。
・既知の動的な短距離秩序(注2)とは異なる、静的な短距離磁気秩序を初めて観測しました。
・パーコレーション理論(注3)の予測と一致する磁気転移の実証に成功しました。
・量子工学や次世代の情報技術への応用が期待されます。

概要

物質の相転移は、自然界におけるさまざまな変化の基礎として重要な現象で、例えば、水が温度変化によって氷や水蒸気になるのも相転移の一つです。相転移の普遍理論としてパーコレーション理論と呼ばれる数学的なモデルがあり、材料科学、電気伝導、生物学、ウイルスの増殖などさまざまな分野でその応用が試みられています。しかし、代表的な相転移として知られる磁気転移については、この理論の実証は単純モデルでの数値計算が行われているのみで、物理学的な実証はされていませんでした。
東北大学大学院工学研究科の鄭旭光特任教授(佐賀大学理工学部教授)らの研究グループは、カゴメ格子(注4)状の新しい量子磁性体を合成し、これまで未観測の静的な短距離磁気秩序を発見しました。さらに、この磁性体においてパーコレーション理論の予測と一致する相転移を実証することにも成功しました。
本成果は、量子コンピューティングや次世代の情報処理技術の発展に寄与する可能性があり、新しい磁性材料を応用したデバイス開発など、量子工学分野への波及効果が期待されます。

本成果は11月25日(日本時間)、科学誌Nature Communicationsに掲載されました。なお、本成果は佐賀大学理工学部の山内一宏准教授、東北大学大学院工学研究科の徐超男教授、内山智貴助教、陳迎教授、日本原子力研究開発機構の萩原雅人研究員、筑波大学数理物質系の西堀英治教授、九州大学大学院工学研究院の河江達也准教授、理化学研究所仁科加速器科学研究センターの渡邊功雄専任研究員との共同研究によるものです。

用語説明

注1. 量子磁性体:電子や光子などの量子同士に強い結びつきができる「量子もつれ」や、量子が複数の状態をとる「量子重ね合わせ」といった量子性を強く示す物質を量子物質と呼ぶ。量子物質が磁性体の場合は特に「量子磁性体」と呼ぶ 。量子力学の特性が大きいスケールで現れるため直接観測できる。

注2. 短距離秩序:考えている系において短い距離での秩序、例えば液体や液体状態を凍結したようなアモルファス物質での原子間の結合距離。

注3. パーコレーション理論:浸透理論とも言う。スポンジへの水の浸透や、伝染病の感染等の普遍現象を単純化したモデルで、その浸透率、感染率(確率)に応じて、ある値を境に様相が一変するという現象(臨界現象)が起きる。その値(臨界確率、閾値)がいくつなのかという問題を考えた理論。

注4. カゴメ格子:原子などが籠の目のような幾何学的な位置に配置されている結晶。

お問い合わせ先

工学研究院 河江 達也 准教授

詳細

本研究の詳細はプレスリリースをご参照ください。

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