高品質ゲノムと遺伝子ネットワーク解析により品種改良を加速
農学研究院
平川英樹 教授
ポイント
・ほうれん草ゲノムを高精度に解読し、とう立ちの仕組みの解明に向けた研究基盤を整備。
・とう立ち時期を制御する有力な候補遺伝子としてSoLNK1を同定。
・とう立ちしにくい品種の育成や、気候変動下でも安定生産できる品種開発への応用に期待。
概要
北海道大学大学院農学研究院の小野寺康之准教授らの研究グループは、ほうれん草ゲノムを高精度に解読し、長鎖DNAシーケンス解析*1、QTL解析*2、RNAシーケンス解析*3、共発現ネットワーク解析*4、系統解析*5を統合することで、とう立ち*6の時期に関わる遺伝子ネットワークを明らかにしました。
ほうれん草は日が長くなると花芽形成が始まり、茎が伸びる「とう立ち」が起こります。とう立ちが早く起こると葉の品質や収量が低下し、商品価値に大きく影響します。しかし、その分子メカニズムは十分に解明されていませんでした。
本研究では、高精度ゲノムを基盤として、とう立ち時期に関わる複数の候補遺伝子を抽出しました。特に、概日時計*7関連遺伝子SoLNK1は、遺伝子変異、QTL、共発現ネットワークの複数の解析結果から、とう立ち制御に関わる注目すべき候補遺伝子として位置付けられました。また、概日時計(体内時計)と花成*8開始を結ぶ遺伝子ネットワークの全体像を示しました。本成果は、ほうれん草のとう立ち制御機構の理解を大きく前進させるとともに、晩抽性品種の効率的な育種や、気候変動に対応した安定生産への貢献が期待されます。
なお、本研究成果は、2026年7月29日(水)公開のJournal of Experimental Botany誌にオンライン掲載されました。
用語解説
*1 長鎖DNAシーケンス解析 … DNAを数万~数十万塩基という長い断片のまま読み取る解析手法のこと。ゲノムを高精度に解読し、染色体レベルでつなぎ合わせることができる。
*2 QTL解析(量的形質遺伝子座解析) … 草丈や開花時期など、複数の遺伝子が関わる形質に影響するゲノム領域(QTL)を特定する解析手法のこと。品種改良に関わる遺伝子の探索に広く利用されている。
*3 RNAシーケンス解析(RNA-Seq) … 細胞内でどの遺伝子が、どの程度働いているか(発現しているか)を網羅的に調べる解析手法のこと。遺伝子の働きや環境への応答を調べることができる。
*4 共発現ネットワーク解析 … 発現パターンが似ている遺伝子をグループ化し、互いに協調して働く遺伝子群(ネットワーク)を推定する解析手法のこと。生物学的な機能や制御機構の解明に利用される。
*5 系統解析 … 異なる生物の遺伝子やDNA配列を比較し、進化的な類縁関係や共通する特徴を調べる解析手法のこと。本研究では、ヒユ科植物に共通する花成制御の仕組みを調べるために用いた。
*6 とう立ち … 葉菜類で、花が咲く際に茎が急速に伸び始める現象のこと。ほうれん草では葉の品質や収量が低下するため、栽培上の重要な課題となる。
*7 概日時計 … 体内時計。約24時間周期で働く生物の時間を測る仕組みのこと。植物では日の長さや昼夜の変化を感知し、開花や成長などを適切な時期に調節している。
*8 花成 … 植物が花を咲かせるための発育へ切り替わる現象のこと。花芽が形成されることで、その後の開花や結実につながる。
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