ナノエマルジョン化したニンニク油の主成分は標的外生物にやさしく貯蔵豆を守る

害虫を殺す一方で植物の発育や天敵羽化数を向上

農学研究院
津田みどり 教授

ポイント

・環境負荷の低い害虫防除技術への需要が高まる中、植物精油を微細化した水中油型ナノエマルジョン(※1)は、水と混合しやすく有効成分を安定的に放出できることから、新たな防除資材として注目されている
・ニンニク油の主成分であるジアリルジスルフィドをナノエマルジョン化すると、貯蔵豆害虫であるアズキゾウムシに高い殺虫効果を示す一方で、植物や天敵昆虫には低負荷または発育促進することを明らかにした
・収穫後の穀物・豆類の害虫管理に利用できる、環境配慮型の新しい燻蒸剤として期待される

概要

 日本学術振興会外国人特別研究員のUrvashi Sahu博士と九州大学大学院農学研究院の津田みどり教授は、ニンニク精油由来の有機硫黄化合物であるジアリルジスルフィド(DDS)、スペアミント由来のモノテルペノイドである(R)-カルボン(Car)、およびそれらの混合物(1:1および2:1)を基に、超音波処理によって水中油型ナノエマルジョンを作製しました。これら4つの処理のうち、DDSのナノエマルジョンが害虫アズキゾウムシに対して最も高い燻蒸毒性がありました。ナノエマルジョン化により、DDSでは30.5%、Carでは8.2%殺虫効果が向上しました。混合物は二成分単独の毒性を合計した相加的(※2)な毒性を示しました。また、全体的に、害虫の雄成虫は雌成虫よりも感受性が高いことがわかりました。さらに、宿主害虫に対して推定された24時間LC₅₀濃度(※3)において、DDSおよび2:1混合物それぞれのナノエマルジョンは、天敵である寄生蜂ゾウムシコガネコバチ成虫に対しては比較的低い毒性(死亡率22%以下)を示しました。
 特に2:1混合物のナノエマルジョンは、アズキの根の伸長を促進させ、さらにアズキ種子表面には残留が認められませんでした。また、害虫幼虫をDDSのナノエマルジョンに曝露後、寄生蜂を導入した結果、害虫の総死亡率が増加するとともに、寄生蜂の羽化数は増加しました。
 以上の結果から、DDS(単独および2:1混合物)のナノエマルジョンは、害虫に対する燻蒸効果が高く、寄生蜂や貯蔵豆への悪影響は小さいか、むしろ有益で、貯蔵豆への残留も検出されなかったため、有望な防除資材として期待できます。
 この成果は2026年6月16日付(現地時間)で国際誌Ecotoxicology and Environmental Safetyに発表されました。

研究者からひとこと

「農薬」と聞くと、人工的に合成された化学物質を思い浮かべがちですが、自然界では、植物も昆虫の攻撃から身を守るために、優れた殺虫活性を持つ多様な化合物を生み出しています。本研究では、そのような天然化合物を、ナノテクノロジーなどの現代的な技術により、安定で少量でも効果的に殺虫できるよう改変しました。生物群集にはやさしい次世代の燻蒸剤としての活用が期待されます。(Urvashi Sahu)

用語解説

(※1) 水中油型ナノエマルジョン(Oil-in-water nanoemulsion)
油分子が水中にナノサイズの微小な液滴として分散する製剤。有効成分をナノ化することで、安定性が向上し、使用量を減らせる可能性がある。

(※2) 相加的(Additive)
2つの化合物を同時に用いたときに、それぞれが互いの効果を弱めたり強めたりしないこと。

(※3) LC50濃度(LC50 concentration)
半数致死濃度のこと。一定時間内に試験対象集団の50%を死亡させると予測される物質の濃度。

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