オルガノイド技術により膵がんのサブタイプ分類と予後予測に成功

九州大学病院
小川 佳宏 主幹教授

膵がん治療の最適化と新たな治療法の開発に期待

ポイント

・膵がん診断時の内視鏡生検検体から効率よくオルガノイドを樹立する方法を確立した
・オルガノイドの形態分類から膵がんのサブタイプ分類と治療効果の予測が可能になった
・膵がんに対する最適な治療薬の選択が可能になり、個別化医療の実現が期待される

概要

膵がんは診断時に遠隔転移を有することが多く、最も予後が悪いがんとされています。臨床経過も様々であり、抗がん剤などの治療効果を事前に予測することは困難です。近年、オルガノイド(※1)技術が目覚ましい進歩を遂げていますが、膵がん患者の生検検体からオルガノイドを作製し、治療薬の選択につなげる試みはありませんでした。

九州大学大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、藤森尚講師、松本一秀⼤学院⽣らの研究グループは、同臨床・腫瘍外科の中村雅史教授(九州大学病院長)、形態機能病理学の⼩⽥義直教授、同大学生体防御医学研究所の中山敬一教授(現東京医科歯科大学特別栄誉教授)らとの共同研究により、膵がん患者の診断時の内視鏡生検(※2)検体を用いて膵がんオルガノイドを樹立し、その形態分類と網羅的遺伝子発現解析(※3)の結果から、がんの特徴を反映するサブタイプ(※4)を1-2週間という短期間で見極めることに成功しました。この形態分類は抗がん剤の治療効果と良く相関しており、予後を予測できることが初めて明らかになりました。

実際の臨床現場では、がん組織の遺伝子検査の結果を考慮して、患者さんに治療薬を投与するには2ヶ月前後かかるという大きな課題があります。本研究により明らかにしたオルガノイド技術による迅速なサブタイプ分類と治療効果予測は、このタイムラグを解消し、最適な治療薬を迅速に投与する個別化医療の実現の足掛かりになることが期待されます。

本研究結果は「Journal of Gastroenterology」誌に2024年4⽉30⽇午前0時(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

膵がんオルガノイドの樹立に成功し、治療薬選択につながるサブタイプ分類が可能になりました。今回の研究成果を臨床現場に届ける「橋渡し」研究により、膵がんの個別化医療による予後改善を目指します。

用語解説

(※1) オルガノイド
元となる臓器やがんなどの性質を精密に再現できる3D培養法のこと。日本語に直訳すると「臓器もどき」。従来の培養皿(2D)による細胞培養では一部の特殊な細胞しか培養できないが、培養液の成分や培養環境を生体に近づけることにより、多くの臓器やがんが培養で再現できるようになった。移植医療などへの臨床応用も期待されている。

(※2) 内視鏡生検
胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡を用いてがんなどの一部を採取すること。2010年以降、胃カメラの先端にエコーを備えた特殊な内視鏡と専用の穿刺針を組み合わせた超音波内視鏡により、多くの膵がん症例で正確な診断ができるようになった。

(※3) 網羅的遺伝子発現解析
数万個の遺伝子の発現挙動をまとめて解析する技術。一度の解析で膨大な遺伝子発現情報が得られるため、その中から必要な情報を解析し、細胞や組織の特徴・状態などを知ることができる。

(※4) サブタイプ
がんにおけるサブタイプとは、遺伝子やタンパク質の発現状態を踏まえて分類されたものを指す。膵がんでは上述の網羅的遺伝子発現解析による特定の遺伝子群の発現状態により分類されている。

研究に関するお問合せ先

九州大学病院 講師 藤森 尚
医学研究院 主幹教授 小川 佳宏

詳細

本研究の詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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