胸部X線動態撮影から肺塞栓症を診断するシステムを開発

~世界初!慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の検出における有用性を証明~

ポイント

・慢性血栓塞栓性肺高血圧症(※1)は治療によって予後が大きく改善するため、早期発見が重要な疾患です。
・胸部X線動態撮影を用いて簡便かつ低い被曝線量で肺塞栓症(※2)を診断するシステムを世界で初めて開発しました。
・本システムで慢性血栓塞栓性肺高血圧症を高精度に検出できることが明らかになりました。さらに多くの症例で慢性血栓塞栓性肺高血圧症の早期発見が可能となり、早期治療介入、予後改善につながることが期待されます。

概要

 肺高血圧症(※3)は心臓から肺へ血液を送る血管である肺動脈の血圧が上昇し、心臓と肺の機能障害をもたらす予後不良な進行性の疾患群です。慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: 以下CTEPH)はその一系で、肺動脈内に慢性的に形成された血栓によって、肺血流が広く障害され、肺高血圧症を生じます。慢性肺血栓塞栓症によって引き起こされる肺高血圧症とも言い換えられます。国内患者約4,600人の希少疾患ですが、患者数は増加傾向にあります。無治療では極めて予後不良ですが、カテーテル治療や外科的治療により予後が大きく改善することから、他の要因による肺高血圧症と鑑別することが重要です。CTEPHを早期に見つけ出すため、肺高血圧症を疑う症例には、肺換気・血流シンチグラフィを施行して肺塞栓症の有無を評価することが強く推奨されていますが、大型装置、被曝、検査時間の長さから検査数は制限されています。したがって、肺塞栓症による肺血流異常を早期に評価できる簡便かつ低被曝な医療機器の開発が医療現場で望まれています。
 本研究で使用された胸部X線動態撮影は、単純X線撮影と同様の装置を用い、7-10秒の息止めの間に胸部の連続X線画像を撮影する医療技術です。造影剤や放射性核種を用いることなく、被曝量も肺換気・血流シンチグラフィの10分の1程度です。九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野の石神康生教授、山崎誘三助教、循環器内科学分野の阿部弘太郎講師、コニカミノルタの福元剛智臨床開発グループリーダーらの研究グループは、連続X線画像の肺内のX線透過性の経時的変化から肺塞栓症を示唆する血流分布異常を評価し、連続X線画像もしくは同時に撮影した胸部単純X線写真内の肺野異常所見を合わせて判断することで、肺塞栓症の診断を行うシステムを、世界で初めて開発しました。CTEPH検出における有用性を肺高血圧症患者50名のデータで検証したところ、放射線科専門医の読影は肺換気・血流シンチグラフィとほぼ同等の結果を示すことが確認され、胸部X線動態撮影システムがCTEPHを高精度に検出する簡便かつ低被曝な医療機器となる可能性があることが証明されました。
 今後、胸部X線動態撮影システムのCTEPH検出能を評価する多施設共同・医師主導治験を予定しており、その有用性がさらに明らかになれば、より多くの症例で慢性血栓塞栓性肺高血圧症の早期診断が可能となり、早期治療介入、予後改善につながることが期待されます。また、本システムは急性肺塞栓症にも応用可能と予想され、重篤な急性疾患である急性肺塞栓症の新たな診断装置としても期待されます。
 本研究成果は、国際学術雑誌「Radiology」に2022年11月9日(水)0時に掲載されました。

用語解説

(※1) 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)
肺動脈内に慢性的に形成された血栓が塞栓を起こし、肺の血流が広範囲で傷害されることで、肺高血圧症を生じる疾患です。肺高血圧症の第4群に当たります。
(※2) 肺塞栓症
心臓から肺へ血液を送る血管である肺動脈に血栓(血の塊)などが詰まることで肺の血流を障害し、呼吸苦や胸痛を起こす疾患です。ほとんどが血栓によるもので肺血栓塞栓症と呼ばれることもあります。大きな血栓が急に詰まり急激な症状を呈する急性肺塞栓症と、小さな塞栓を繰り返しながら徐々に進行する慢性肺血栓塞栓症があります。
(※3) 肺高血圧症
心臓から肺へ血液を送る血管である肺動脈の血圧が上昇し、心臓と肺の機能障害をもたらす予後不良な進行性の疾患群です。原因・病態から大きく5群に分けられます。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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