希少品種や絶滅危惧鳥類の遺伝資源保存技術の向上に期待
理学研究院
齋藤大介 教授
ポイント
・ニワトリの遺伝資源保存に不可欠な『始原生殖細胞(PGC)』注1)の体外培養・株化効率が、レトロウイルス様遺伝子『ENS-1/ERNI』の発現量と相関していることを発見した。
・PGCにおいてCRISPRi注2)を用いてENS-1/ERNIの制御配列である・『Soprano LTR』注3)を抑制すると、細胞の恒常性維持に関わる遺伝子群の発現が低下し、DNA損傷に対して異常な細胞周期の停止を起こして増殖が低下することを突き止めた。
・Soprano LTRの発現を抑えたPGCは、ニワトリ初期胚へ移植した際に正常な発生ができなくなることを明らかにした。
概要
世界の主要な家畜であるニワトリには、名古屋種など多くの地域特有の品種が存在し、それらの遺伝資源を保存することは極めて重要です。しかし、哺乳類とは異なり、鳥類は多量の卵黄と卵殻を持つため受精卵を凍結保存しておくことは困難です。そのため、体外培養した生殖幹細胞である始原生殖細胞(PGC)を凍結保存しておき、必要に応じて他個体の胚に移植して次世代を再生する手法が代替案として期待されています。しかしながら、一部の品種や雌の胚からはPGCを安定的に培養して株化することが難しいという課題がありました。
そこで、名古屋大学大学院生命農学研究科の奥嵜 雄也 助教、西島 謙一 教授らの研究グループは、九州大学大学院理学研究院の齋藤 大介 教授および、国立遺伝学研究所分子生命史研究室の川口 茜 助教との共同研究により、多様なニワトリ品種におけるPGCの遺伝子発現を網羅的に解析しました。その結果、PGCの胚における正常な発生と体外での培養環境への適応のために、ゲノム中のレトロウイルス由来の遺伝子「ENS-1/ERNI」およびその制御配列である「Soprano LTR」が重要な役割を果たしている可能性を明らかにしました 。
本成果は、鳥類の生殖細胞発生における未知の分子メカニズムを解明しただけでなく、絶滅危惧鳥類や貴重なニワトリ品種の遺伝資源バックアップ技術の効率化へ貢献することが期待されます。本研究成果は、2026年7月17日に国際学術誌「iScience」に掲載されます(オンライン2026年6月24日先行公開済み)。
用語解説
注1)始原生殖細胞(PGC:Primordial Germ Cell):
将来、精子や卵子へと分化し、次世代へ遺伝情報を伝えることができる生殖細胞の中でも最も未分化な幹細胞。多くの鳥類では、胚発生の最初期にその他の体細胞とは別に発生し、その後胚の血液中を循環したのち、生殖腺へと移動する特徴を持つ。
注2)CRISPRi:
DNA切断活性をなくしたCas9タンパク質に遺伝子発現を抑制するドメインを付加することで、DNA配列を物理的に切断することなく、目的遺伝子の発現を抑制することができるゲノム編集技術。
注3)LTR(Long Terminal Repeat):
レトロウイルスやレトロトランスポゾンの両端に存在する塩基配列。宿主細胞内において、近くにある遺伝子の発現スイッチを入れるプロモーターやエンハンサー(発現調節領域)として働くことがある。
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