見逃されてきた短いペプチドを正確に読み解く新技術、食品・生命科学研究への応用に期待
農学研究院
田中充 准教授
ポイント
・食品や生体試料に含まれる短いペプチド(※1)は、生命現象や食品機能に関わる重要な分子であるが従来の解析技術では配列を正確に決定することが難しく、その実態や機能の解明が課題
・本研究では、質量分析法(※2)を用いてこれまで見逃されてきた短いペプチドの配列を正確に決定できる、新規ペプチドミクス(※3)技術の開発に成功
・本技術により、食品や生体試料中に存在する短いペプチドの機能解明が進み、今後、食品の品質や機能性の評価、疾患関連ペプチドの探索、生命科学研究への応用が期待
概要
近年、ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなどのオミクス(※4)技術の発展により、生命現象を分子レベルで理解する研究が進んでいます。なかでも、食品や生体試料に含まれる短いペプチドは、生命現象や食品機能、生体応答を反映する重要な分子であると考えられています。
しかし、従来のペプチドミクス解析では、質量分析(MS)において得られた情報を既知のタンパク質配列データベースと照合してペプチドを同定する方法が主流でした。そのため、データベースに登録されていないペプチドや、7残基以下の短く情報量の少ないペプチドを正確に解析することは困難でした。
今回、九州大学五感応用デバイス研究開発センターの外山友美子助教、大学院農学研究院の田中充准教授らの研究グループはクマリン誘導体化MS法をMS/MS解析(※5)に応用し、既存の配列データベースに依存せず、質量分析データから低分子ペプチドの配列を直接読み解く新規ペプチドミクス技術を確立しました(図1)。本技術により、これまで見逃されてきた短いペプチドの配列を高精度かつ網羅的に決定できるようになり、食品や生体試料中に存在する未知の短鎖ペプチドの探索が可能になります。
今回の成果は、食品の機能性評価、生理活性ペプチドの発見、疾患関連ペプチドの探索などに役立つことが期待されます。
本研究成果は、米国の学術雑誌「Analytical Chemistry」に2026年6月15日(月)(日本時間)に掲載されました。
研究者からひとこと
「計測は科学の母」という言葉の通り、優れた分析法は科学の進歩を支える根幹です。私たち分析化学者の最大の喜びは、複雑な試料の中に潜む情報を余すことなく引き出せるツールを世に送り出すこと。本手法が一人でも多くの研究者の手に渡り、新しいサイエンスを切り拓く一助となれば、これ以上の喜びはありません。分析屋冥利に尽きる、そんな研究を今後も追求していきます。(田中充)
用語解説
(※1)ペプチド
・・・アミノ酸が複数つながった分子。
(※2)質量分析法
・・・分子の重さを手がかりに、試料中の成分を調べる分析方法。
(※3)ペプチドミクス
・・・オミクス研究の一つで、試料中に含まれる多くのペプチドをまとめて解析し、その種類や量、アミノ酸配列を調べる研究分野。
(※4)オミクス
・・・生体内に存在する分子を一つずつ調べるのではなく、まとめて網羅的に解析する研究分野の総称。遺伝子を対象とするゲノミクス、タンパク質を対象とするプロテオミクス、代謝物を対象とするメタボロミクスなどがある。
(※5)MS/MS解析
・・・質量分析を2段階で行う方法。まず1段目で「調べたい分子」だけを取り出し、次にその分子をわざと壊して、2段目においてできた破片のパターンから分子の構造や種類を詳しく特定する方法。
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