「痛いの痛いの飛んでけ~」は本当に効いていた!

痛みを抑える触覚神経を特定

薬学研究院・高等研究院
津田誠 主幹教授

ポイント

・「痛いところをさすると痛みが和らぐ」という身近な現象の神経メカニズムは未解明だった
・痛みを抑える働きをもつ触覚神経集団を世界で初めて特定し、その神経からの信号が脊髄で痛覚の伝わりを抑制することを明らかにした
・「痛いの痛いの飛んでけ~」の仕組みの解明につながる成果であり、触覚刺激を利用した新たな疼痛治療法や医療機器の開発への応用が期待される

概要

 「痛いところをさすると痛みが和らぐ」という経験は、多くの人に身近なものです。しかし、なぜ触れるだけで痛みが軽くなるのか、その仕組みはよく分かっていませんでした。
 動物も、人間と同じように痛みを感じたときにそれを和らげようとする行動をします。例えばマウスは、皮膚が傷つくとその場所を繰り返し舐めます。唾液中には細菌の増殖を抑える成分や熱を感じるタンパク質の働きを抑える成分などが含まれていますが、一方で、舌が皮膚に繰り返し触れる、つまり皮膚への触刺激そのものが痛みを和らげているのかどうかは分かっていませんでした。
 九州大学大学院薬学研究院・高等研究院の津田誠主幹教授、大学院薬学府の末藤大智大学院生(当時)らの研究グループは、皮膚への接触による感覚信号を脊髄に伝える触覚神経の特定の亜集団を取り除くと、痛み刺激を受けたマウスがその場所を舐め続ける時間が長くなることを発見しました。研究グループは、この現象から、この触覚神経には痛みを抑える能力があり、それがないために痛い場所を舐めても痛みを抑える働きが弱く、痛みを十分に和らげようと長時間舐め続けているのでは考えました。そこで、この仮説を実証することで「触れることで痛みを軽くする感覚神経」を特定できると考え、この触覚神経だけを人為的に刺激したところ、皮膚への痛み刺激で発生した信号の伝わりが脊髄で弱くなり、痛い皮膚を舐め続ける時間も短くなりました。
 今回の発見は、これまで謎であった痛みを抑える触覚神経が初めて特定され、「痛いところをさすると痛みが和らぐ」という、私たちにとって身近な現象の仕組みの一端が明らかになりました。将来的には、触覚刺激を利用して痛みを抑える新しい治療法や医療機器の開発につながることが期待されます。
 本研究成果は米国の科学誌「PNAS」に2026年7月15日(水)(現地時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

『手当て』という言葉があるように、痛いところに触れると痛みが和らぐことを私たちは経験的に知っています。なぜ触れるだけで痛みが軽くなるのか、その疑問を説明できる仕組みのひとつを今回の研究から明らかにできたかもしれません。(津田誠)

詳細

本件の詳細についてはこちら

お問い合わせ先

薬学研究院・高等研究院 津田誠 主幹教授

作物増産に貢献する「プラズマ農学」の新展開

ニワトリ生殖細胞の発生を制御する遺伝子を発見

関連記事

  1. タンパク質合成に関わる新たな因子を発見

    ~ リボソーム衝突を解消する複合体がmRNAの固い構造を解く ~ …

  2. 《8/7開催》九州大学 新技術説明会 【オンライ…

    直接研究者とディスカッションいただける絶好の機会です来る8月7日(木)に…

  3. 細胞が基板表面に接着する「瞬間」を高時空間分解能…

    〜ナノサイズの線維状構造体を放射状に出し、細胞が自らを仮留めする〜 …

  4. 《6/11開催》第190回アジア・オセアニア研究…

    原田 祐希 助教(熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構 化血研寄附講座)…

  5. 【受賞】九州大学病院菊池良和助教が第84回西日本…

     菊池 良和 助教が西日本文化賞を受賞しました九州大学病院 耳鼻咽喉・頭…

  6. ウイルスは細胞同士の「会話」を乗っ取り感染を広げ…

    ~インフルエンザの新たな感染メカニズムを発見、治療薬開発に期待~医学研究…

  7. 染色体DNAの複製開始をレスキューするメカニズム…

    ~多様な障害を乗り越えてDNA複製や細胞増殖を行わせる頑強性の基盤~薬学…

  8. 生命現象中の細胞膜の脂質秩序を連続観察できる蛍光…

    ~細胞接着やがん、線維症など病態の解明に光~ポイント・細胞脂質の…