自閉症発症の分子メカニズムを解明

―CHD8遺伝子変異による自閉症発症のリスク予測と実証―

ポイント

・CHD8遺伝子は自閉症患者において最も多くの変異が報告されている遺伝子である。
・本研究では、CHD8遺伝子変異を6つのスコアによって特徴付け、実験的な検証をおこなうことで、自閉症発症の分子機序を複数同定した。
・本研究で確立したスコアは自閉症発症のリスク予測などへの応用も期待される。

概要

 自閉症(※1)は「対人コミュニケーション障害」と「活動や興味の範囲の著しい限局性」を主な特徴とする神経発達障害であり、その発症頻度は総人口の約1.5%と非常に高い一方で、根本的な治療法や正確な診断方法などが確立されていないため、社会的にも大きな問題となっています。近年、自閉症患者を対象とした大規模な遺伝子変異探索がおこなわれた結果、CHD8という遺伝子に最も多くの遺伝子変異が同定されたことから、現在CHD8は自閉症の病因・病態を理解するための代表的な遺伝子として世界的に注目を集めています。しかし、これまでは自閉症の発症原因としてCHD8タンパク質の量的減少に着目した研究がほとんどで、CHD8タンパク質の機能障害を生じる変異についての解析は行われていませんでした。そのため、どの変異がどのような分子機序で自閉症の発症に関与しているのかについてはほとんど理解が進んでおらず、自閉症発症の分子基盤は未だに不明のままです。
 九州大学 中山 敬一 主幹教授、白石 大智 大学院生、金沢大学 西山 正章 教授、藤田医科大学 宮川 剛 教授、長浜バイオ大学 白井 剛 教授らの研究グループは、自閉症患者におけるCHD8遺伝子上のミスセンス変異(※2)に対して、様々な予測スコアを適用し、これらの変異が高いスコアを持つ群と低いスコアを持つ群に大別されることを見出しました。これらのうち代表的な変異について、CHD8タンパク質の活性、幹細胞の神経分化、マウスの行動にどのような影響を及ぼすかについて検証したところ、高スコア群に含まれる変異のみが自閉症の発症に寄与することを明らかにしました。さらに、高スコア群の変異の中にはこれまで予想されていなかった経路を介して自閉症の発症に関与するものも見つかったことから、CHD8遺伝子変異による自閉症の発症メカニズムは複数存在することが示唆されました。
 本研究結果によってCHD8遺伝子変異による自閉症発症の分子基盤に対する理解が深まり、新たな治療法の開発が期待されるほか、本研究で確立したスコアは自閉症発症のリスク予測や診断精度の向上にも役立つと期待されます。本研究成果は英国の雑誌「Molecular Psychiatry」に2024年3月5日(火)午前10時(日本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1) 自閉症:正式な名称としては自閉スペクトラム症や自閉症スペクトラム障害と定義されており、Autism spectrum disorderを略して「ASD」とも呼ばれます。
(※2) ミスセンス変異:あるアミノ酸が別のアミノ酸に置換される遺伝子変異で、全体のアミノ酸配列(CHD8遺伝子の場合2581アミノ酸)のうち1つにしか影響しません。

研究に関するお問い合わせ先

生体防御医学研究所 中山 敬一 主幹教授

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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