狭い⽯の隙間の創出はウナギの定着を促し、栄養状態を⾼める

~失われた汽⽔域の隠れ家の効果的な創出を⽬指して~

ポイント

・ウナギ資源の減少を⾷い⽌めるには、汽⽔域の成育場所を取り戻すことが重要
・狭い浮⽯の間隙は、汽⽔域のウナギの中⻑期的な定着だけではなく、餌⽣物の蝟集を通じて成⻑をも促す可能性を発⾒
・繁殖のために⼤回遊を⾏うウナギの成熟個体の数とともに質(栄養状態)を向上させるような環境整備⽅策案の構築に寄与

概要

 九州⼤学⼤学院農学研究院の⼤⼾夢⽊学術研究員(現⽔産研究・教育機構⽔産⼤学校)、坂上嶺学術研究員(現北海道⽴総合研究機構)、望岡典隆特任教授、同⽣物資源環境科学府博⼠後期課程3 年の松重⼀輝⼤学院⽣(現同農学研究院助教)、北九州市⽴⾃然史・歴史博物館の⽇⽐野友亮学芸員、全国内⽔⾯漁業協同組合連合会の内⽥和男専務理事(現⽔産研究・教育機構)からなる研究チームは、福岡県福津市⻄郷川の汽⽔域での調査をもとに、⽯倉カゴと呼ばれる⽯積み漁具に集まるニホンウナギ(以下、ウナギ)は、内部に狭い浮⽯間隙がある場合に中⻑期的に定着しやすいだけでなく、定着を通じて肥満度を向上させることを発⾒しました。
 河川に⽣息するウナギは、成⻑期に海⽔の影響がある汽⽔域を盛んに利⽤しますが、汽⽔域では周囲に⼈⼝が集中しやすく、⽔害を防ぐため、コンクリート護岸化等が進み、本種が隠れる場所(隠れ家)が失われています。よって、汽⽔域の隠れ家の創出は本種を保全する上での最重要課題といえます。そこで本研究は、⽯倉カゴに詰める⽯のサイズを変え、どのような広さの浮⽯間隙が本種の定着や成⻑を促すかを調べました。⾊素標識によって成⻑期のウナギを追跡したところ、⿂体にフィットする⻑径約10 cm の⽯の隙間を最も好み、そこに中⻑期にわたって定着しやすいことがわかりました。また、この定着期間を経てウナギの肥満度の向上が認められました。⻑径約10 cm の⽯の間隙には、本種の餌⽣物が最も多く確認されたことから、⽐較的狭い間隙構造が、ウナギだけではなく本種の餌⽣物にも隠れ家を提供することが⽰唆されました。
 本研究は、ウナギが⼀時利⽤する⽣息場所の物理特性だけでなく、餌⽣物の定着と、これが本種の成⻑にもたらす効果にも視野を広げ、包括的に汽⽔動物群集を保全できるような⽣息場所の創出が、ウナギの資源管理上で重要である可能性を⽰すことができました。
 本研究成果は、「⽇本⽔産学会誌」に2022年3⽉16⽇および⽶科学専⾨誌「Estuaries and Coasts」に2022年12⽉13⽇(⽕)に掲載されました。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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