~認知症などの予防・治療法の開発への貢献にも期待~
ポイント
・様々な出来事が⽇々起きるにも関わらず、それらが起きた環境(場所)を識別して安定的に記憶できる脳の仕組みは不明であった。
・マウスの海⾺CA1 領域の神経細胞の中に、出来事や時間経過に関わらず特定の環境を表象する「環境細胞」が存在することを発⾒。
・将来的に認知症などの予防・治療法の開発にも役⽴つことが期待される。
概要
私たちは⽇常⽣活において様々な環境(場所)でそれぞれ様々な出来事を経験しますが、それらの出来事が“どこ”で起きたのかを区別して記憶し、想い出すことができます。空間情報や出来事などの記憶の形成と想起には海⾺と呼ばれる脳領域が重要な役割を果たすことが知られていますが、特定の環境そのものの情報を持続的に脳内で表象している神経細胞の種類、性質や仕組みの解明が望まれていました。
今回、出来事や時間経過に関わらず特定の環境を識別して記憶する「環境細胞」が海⾺に存在することを明らかにしました。
九州⼤学⼤学院理学研究院の⼩林曉吾助教と松尾直毅教授の研究グループは、マウスが2 種類の異なる環境で嫌な体験をする前後で、海⾺CA1 領域の約1500 個の神経細胞の活動状態がどのように変化するのかをリアルタイムで記録し、解析を⾏いました。その結果、僅か数%を占める特定の神経細胞が、顕著な出来事や時間経過に関わらず環境特異的に活動していることを⾒いだしました。さらに、それら「環境細胞」の活動パターンをAI モデルに学習させることで、マウスがどの環境にいるのかを神経活動データから予測する、脳活動解読にも成功しました。
今回の発⾒は私たちヒトを含む動物が、⽇々の⽣活の中で周囲の環境の違いや変化を認知し、それらの情報を正しく記憶することができる脳の仕組みを理解するための重要な⼿がかりとなります。また、これらの仕組みを詳細に解明することは、将来的に認知症などの予防・治療法の開発にも役⽴つことが期待されます。
本研究成果は⽶国の学術雑誌「Cell Reports」に2023 年1⽉11⽇に掲載されました。
詳細
詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。