〜 多細胞生物個体の源となる細胞の理解に期待 〜
ポイント
九州大学稲盛フロンティア研究センターの束田裕一教授、同大学生体防御医学研究所の大川恭行教授らの研究グループは、マウス受精卵がもつ全能性(totipotency)が4細胞期胚を構成する割球(※1)に継承されることを世界で初めて明らかにしました。
全能性とは、受精卵のもつ単独の細胞が適切な環境において(哺乳類の場合は子宮)自律的に個体発生を開始し、生殖可能な個体を形成する能力を指します。全能性とよく似た細胞の能力に、ES細胞(※2)やiPS細胞(※3)がもつ多能性(pluripotency)があります。どちらも個体を構成するあらゆる細胞を作り出すことが可能ですが、多能性は全能性と異なり、単独の細胞からは自律的に個体を形成することはできません。全能性をもつ細胞は全能性細胞と呼ばれ、マウスでは受精卵の他に2細胞期胚の割球のみであると約60年間考えられてきました。本研究では、マウス着床前初期胚(※4)を一つ一つの割球に分離し、単独の割球がもつ発生能を調べることで、マウスでは全能性細胞が4細胞期胚まで存在することを明らかにしました。
多細胞生物において、全能性細胞は全ての個体の源であり、単独の細胞でも個体と捉えることのできる極めて特殊な細胞です。全能性のしくみを明らかにすることは、個体発生のしくみだけでなく、命やヒトをより深く理解することに繋がります。
本研究成果は、2021年5月27日(木)午前10時(英国時間)に科学雑誌「Scientific Reports」で公開されました。
用語解説
(※1)割球
受精卵の卵割(※5)により生じる細胞。
(※2)ES 細胞
胚盤胞期胚の内部細胞塊から樹立される多能性幹細胞株
(※3)iPS 細胞
体細胞に特定因子を導入することで樹立される多能性幹細胞株。
(※4)着床前初期胚
子宮に着床する前の胚で、マウスでは 1(受精卵)、2、4、8 細胞期、桑実胚期、胚盤胞期の発生ステージに分けることができる。
(※5)卵割
受精卵で生じる、細胞の肥大を伴わず、細胞が次第に小さくなる特殊な細胞分裂。
詳細
九州大学プレスリリースをご参照ください。