⻩麹菌細胞におけるmRNA⽣成メカニズムを世界で初解明

~発酵⾷品に⽋かせない微⽣物、有⽤物質のさらなる⽣産量向上に期待~

ポイント

・日本酒や味噌、醤油などの発酵・醸造産業に必要不可欠な微生物である黄麹菌(きこうじきん)の細胞の中でどのようにmRNAが生成されるのか未解明でした。
・でんぷん分解に重要なグルコアミラーゼのmRNAが、黄麹菌の細胞内において、いつ・どこで・どのように生成されるのかを世界で初めて明らかにしました。
・今後、黄麹菌を用いたさらなる有用物質生産性向上に向けた分子育種が期待されます。

概要

 黄麹菌※1は、日本酒、味噌、醤油などの発酵や醸造産業に必要不可欠な微生物(カビ、糸状菌)であり、日本醸造学会においては日本を象徴する微生物「国菌」にも認定されています。黄麹菌が産業利用される理由としては、有用な物質、主に酵素を安全かつ多量に生産できることが挙げられます。一例として、黄麹菌はでんぷん分解に重要な酵素であるアミラーゼを多量に作ることができます。そうした酵素はタンパク質の1種であり、タンパク質はmRNA※2から作られますが、黄麹菌の細胞内においてmRNAがどのように生成されるのかという分子メカニズムは明らかになっていませんでした。
 九州大学大学院農学研究院発酵化学研究室の樋口裕次郎准教授、竹川薫教授、生物資源環境科学府博士課程3年の守田湧貴氏、ならびにクイーンズランド大学のBrett M. Collins教授らの研究グループは、黄麹菌が有する主要なでんぷん分解酵素であるグルコアミラーゼの遺伝子であるglaA※3のmRNAを、生きた細胞内で可視化することに成功しました。そして、glaA mRNAが黄麹菌細胞内の特定の核※4で生成されていくことや、環境変化に応じて細胞内での存在位置や量が変化することを見出しました。
 今回の研究成果は、黄麹菌細胞内でどのように有用酵素が多量に生産できるのかという分子メカニズムの一端を明らかにしたものです。こうした知見の蓄積により、将来的にはより一層有用物質を生産できる黄麹菌の分子育種※5が可能になると期待されます。
 本研究成果は、日本時間2024年2月23日(金)に、国際学術雑誌「Microbiological Research」にオンライン掲載されました。

研究者からひとこと

黄麹菌は発酵や醸造において我々に身近な菌ではありますが、まだまだ生物学的には未解明なことが多いです。国菌とも呼ばれる黄麹菌から新たな生命現象の分子機構を解明し、国際共同研究を展開することで、世界にアピールできる研究成果を今後も発表していきたいです。

用語解説

(※1) 黄麹菌
カビ(糸状菌)の1種であり、学名はAspergillus oryzae。日本において発酵や醸造産業に広く利用される有用な微生物。でんぷんを分解するアミラーゼやタンパク質を分解するプロテアーゼなど、産業上有用な酵素を安全かつ多量に生産することができる。
(※2) mRNA
メッセンジャーRNAのこと。DNAから作られ、タンパク質を作るのに必要な分子。
(※3) glaA
黄麹菌が有する遺伝子の1つで、でんぷんを分解しグルコースを生成する酵素であるグルコアミラーゼをコードしている。
(※4) 核
細胞小器官の1つで、ゲノムDNAを内包している。
(※5) 分子育種
細胞を分子レベルで改変して新しい品種を作ること。黄麹菌においては、歴史的には外来の遺伝子を導入する遺伝子組換えが多く行われてきたが、日本では2019年10月にゲノム編集食品が解禁されたこともあり、ゲノム編集による分子育種も行われてきている。

研究に関するお問い合わせ先

農学研究院 樋口 裕次郎 准教授

詳細

本研究の詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

【3/16】開催「いとしま免疫村」拠点づくり クリエイティブセミナー

フジイギャラリーにて、「総合知とデザインと未来」展を開催

関連記事

  1. 世界初、酸素に耐える乳酸菌が「脳の健康成分」プラ…

    ~プラズマローゲンは細菌進化とストレス耐性に関与。酸素下での生産に成功し、認…

  2. 脳の疾患と免疫応答(第63回 Q-AOS Bro…

    生体防御医学研究所准教授 伊藤 美菜子九州大学アジア・オセアニア…

  3. 胸部X線動態撮影から肺塞栓症を診断するシステムを…

    ~世界初!慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の検出における有用性を証明~ポイ…

  4. アトピー性皮膚炎の発症に関わる痒み物質の産生を抑…

    〜 痒みを根元から絶つ新たな治療の実現に期待 〜 九州大学生体防御医…

  5. 「世界環境の日」ホスト国のSDGs「新国富(IW…

    「新国富指標」1972年6月5日からストックホルムで開催された「国連…

  6. 徳永 幹雄 名誉教授「第25回秩父宮記念スポーツ…

    〜徳永 幹雄 名誉教授が「第25回秩父宮記念スポーツ医・科学賞」功労賞を受賞…

  7. 光照射を用いた超高解像度な遺伝子解析技術の開発に…

     ~組織内に潜むがん細胞の病理診断などに応用可能~ ポイント・組…

  8. 発達期の麻酔薬曝露による学習・記憶障害誘導のメカ…

    〜複数回麻酔薬曝露による認知機能障害改善に期待〜概要 九州大学大…