糖飢餓状態の悪性脳腫瘍 ミトコンドリア翻訳阻害薬が有効

〜世界初、新しいアプローチによる脳腫瘍治療開発に期待〜

ポイント

・悪性脳腫瘍は平均余命がわずか2 年以内と極めて悪性度の⾼い疾患であり, 有効性が保証された根本的治療⽅法は確⽴していません。
・本研究では⽣体状況を模した糖飢餓状態(※1)において腫瘍細胞がミトコンドリアに依存し,ミトコンドリア翻訳阻害薬(※2)が著効するということ, およびそのメカニズムを世界で初めて明らかにしました。
・今後本治療単独もしくは既存の脳腫瘍治療薬による新しい脳腫瘍治療法の開発につながることが期待されます。

概要

 悪性脳腫瘍の平均余命はわずか2 年以内と極めて予後が悪く有効な治療がありません。現在テモゾロミドという薬剤が広く使⽤されていますが, 余命をわずか数ヶ⽉延ばす効果があるのみで根本的な治療⽅法は開発されていません。
 本研究では, 腫瘍の⽣体環境と考えられる糖飢餓状態において, 腫瘍細胞はエネルギー産⽣をミトコンドリアに強く依存することを発⾒し, ミトコンドリアを標的とした治療およびそのメカニズムを解明しました。
 九州⼤学⼤学院医学研究院保健学部⾨検査技術科学分野の内海健 教授 (責任著者), ⼋⽊美佳⼦助教, 同院臨床検査医学分野の康東天 名誉教授, 博⼠課程3 年の三⽊健嗣 (筆頭著者), 同院脳神経外科の吉本幸司 教授らの研究チームは, 糖飢餓状態の腫瘍細胞ではミトコンドリア関連蛋⽩および酸化的リン酸化(※3)の活性が上昇し, ミトコンドリアに強く依存することを明らかにしました。そしてミトコンドリア翻訳阻害薬(クロラムフェニコールなど)を⽤いてミトコンドリア機能を阻害すると強⼒な抗腫瘍効果を⽰すことが分かりました。今回使⽤したクロラムフェニコールは細菌を標的とした抗⽣剤であること, 既に他疾患で⽣体でも使⽤されている薬剤であるため, 新規薬剤と⽐較して⽣体への応⽤が迅速であることが予想されます。また, 細胞死に⾄るメカニズムについて検討したところよく知られているアポトーシス(※4)ではなく, 近年注⽬を浴びている鉄による細胞死ʻフェロトーシスʼ(※5)であることを明らかにしました。
 今回の研究は難治性である悪性脳腫瘍に対してミトコンドリアを標的とする新しい側⾯からアプローチを⾏いました。今後⽣体への有効性について検討し, 本治療単独もしくは既存の脳腫瘍治療薬との併⽤により治療困難だった悪性脳腫瘍治療法の開発へ⼤きく貢献するものと考えられます。
 本研究成果は、2022 年10 ⽉4 ⽇にnature publishing group の発⾏する雑誌Oncogenesis に掲載されました。

用語解説

(※1) 糖飢餓状態
糖が⽋乏している状態もしくは環境のこと。
(※2) ミトコンドリア翻訳阻害薬
ミトコンドリアには独⾃のDNA があり, ミトコンドリア内で翻訳を⾏っている。このミトコンドリア内での翻訳を阻害する薬剤(クロラムフェニコールなど)のこと。
(※3) 酸化的リン酸化
ミトコンドリアにおいて酸化反応を伴う電⼦伝達系と共役してリン酸化反応によりATP 合成を⾏う経路のこと。
(※4) アポトーシス
組織をよりよい状態に保つため細胞⾃体に組み込まれたプログラム細胞死のこと。
(※5) フェロトーシス
細胞内⾃由鉄を触媒として過酸化脂質の蓄積により引き起こされる細胞死のこと。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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