CAR-T細胞療法の神経毒性を予測する新規バイオマーカーを発見!

~九州大学病院の質量分析プラットフォームによる革新的解析~

医学研究院
國﨑 祐哉 教授

ポイント

・キメラ抗原受容体(CAR)-T 細胞療法(CAR-T細胞療法, ※1)は悪性腫瘍に対する有効な免疫療法として注目されていますが、一方で、重大な神経毒性を伴う免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS, ※2)などの副作用が課題となっており、その予測が困難であるため、信頼性の高いバイオマーカーの開発が求められていました
・九州大学病院検査部の質量分析プラットフォームを活用し、CAR-T細胞療法前の髄液検査でICANSを予測可能にする新規バイオマーカー「C1RL/FUCA2」を世界で初めて発見しました
・本成果はCAR-T細胞療法の安全性向上に加え、患者ごとの個別化医療の実現や治療の最適化に貢献することが期待されます

概要

CAR-T細胞療法は、遺伝子改変されたT細胞を用いてがん細胞を攻撃する革新的な免疫療法であり、特にB細胞性非ホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍に対して高い治療効果を示します。しかし、副作用としてサイトカイン放出症候群(CRS, ※3)やICANSが発生することが知られており、特にICANSはCAR-T細胞療法を使用した患者の約64%に見られ、生命を脅かす重大なリスクとなっています。そのため、ICANSの早期予測と対策が急務とされていますが、信頼性の高いバイオマーカーの確立や発症メカニズムの解明は十分に進んでいません。

本研究では、九州大学病院検査部が保有する質量分析プラットフォームを活用し、CAR-T細胞療法後のICANSなどの副作用発症リスクを治療前の髄液タンパク質検査で予測する新しい手法を開発しました。B細胞性非ホジキンリンパ腫患者29名の髄液を解析した結果、新規バイオマーカー「C1RL/FUCA2」の複合比率を特定しました。受信者動作特性(ROC)曲線解析ではAUC0.95という極めて高い予測精度を示し、追加コホートによる検証でもその有用性が確認されました。この成果により、ICANSの早期診断とリスク評価が可能となり、CAR-T細胞療法の安全性と有効性を大幅に向上させることが期待されます。

本研究は、九州大学大学院医学研究院臨床検査医学分野の國﨑祐哉教授、九州大学病院検査部の野見山倫子博士、瀬戸山大樹助教、および血液腫瘍心血管内科の加藤光次准教授らの研究チームによる成果です。今後、非侵襲的な血液バイオマーカーとの関連性が確認されれば、さらに簡便な検査法の開発が期待されます。

本研究成果は、Nature Publishing GroupのLeukemia誌に2025年3月11日(火)午前10時(日本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1)CAR-T細胞療法
CAR-T細胞療法は、患者のT細胞を遺伝子改変し、特定のがん細胞を認識し攻撃する能力を持たせる革新的な免疫療法です。CARはChimeric Antigen Receptor(キメラ抗原受容体)の略で、これによりT細胞ががん細胞を認識しやすくなります。この治療法は、特にB細胞系腫瘍に対して効果があり、再発や難治性の患者にとって新たな希望となります。ただし、重篤な副作用もあるため、慎重な管理が必要です。現在、CAR-T細胞療法は主に血液がんに対して使用されていますが、今後は固形がんや自己免疫疾患(リウマチ)など、適用範囲がさらに広がり、多くの治療の選択肢を提供することが期待されています。

(※2)免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群
免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome: ICANS)は、CAR-T細胞療法や他の免疫療法に伴って発生する神経系の副作用です。症状には頭痛、混乱、失語、発作、昏睡などが含まれ、CRSと同様に、迅速な診断と治療が重要であり、ステロイドや他の免疫抑制薬が用いられることがあります。

(※3)サイトカイン放出症候群
サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome: CRS)は、免疫細胞が大量のサイトカインを放出することにより引き起こされる全身性の炎症反応です。CAR-T細胞療法の副作用として特に知られ、発熱、疲労、筋肉痛、低血圧、呼吸困難などの症状が現れます。重症の場合は、臓器障害や生命の危険も伴うため、迅速な医療対応が必要とされています。

詳細

本研究の詳細はこちらをご参照ください。
お問合せは
医学研究院 國﨑祐哉 教授
医学研究院 加藤光次 准教授

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