低浸透圧の液体に曝されても上皮細胞が破裂しない仕組みの解明

~上皮細胞シートの破綻に起因する疾患に対する新たな治療法の開発に期待~

ポイント

・消化管や皮膚などの表面に位置する上皮細胞シートは外界からの異物の侵入を防ぐバリアとして機能しますが、常に様々な浸透圧の溶液に曝されています。
・本研究で、アピカル膜に豊富に存在するスフィンゴミエリンと呼ばれる脂質の輸送過程を可視化し、mTORC2シグナル伝達経路が活性化するとスフィンゴミエリンの輸送が亢進することを明らかにしました。
・低浸透圧溶液に曝された上皮細胞ではmTORC2シグナル伝達経路が活性化することにより、破裂による細胞死を免れていることが明らかになりました。

概要

 私たちの体の表面や器官の表面は上皮細胞と呼ばれる細胞のシートによって覆われています。上皮細胞シートは、外界からの異物の侵入を防ぐバリアとして機能します。例えば消化管の上皮細胞は、浸透圧の高いお汁粉や蜂蜜のような液体から、真水や唾液のような低浸透圧の液体など、浸透圧の大きく異なる溶液に絶えず曝されています。低浸透圧の溶液に曝された際には、細胞内に水が流入するため、細胞は膨らみます。この際に、細胞膜に脂質が適切に供給されなければ、細胞膜が破裂して、細胞は死に至ります。今回、九州大学大学院理学研究院の池ノ内順一教授、システム生命科学府博士課程の小野由美子 大学院生らの研究グループは、上皮細胞が管腔側から低浸透圧の溶液に曝されると、アピカル膜が選択的に増大することを見出しました。さらに、低浸透圧による刺激によってmTORC2(mammalian target of rapamycin complex 2)シグナル伝達経路が活性化され、その結果、アピカル膜を構成する脂質スフィンゴミエリンを含む小胞とアピカル膜との融合が促進されて、アピカル膜が拡大することを明らかにしました。mTORC2シグナル伝達経路は、細胞の増殖や細胞の運動に関わるシグナル伝達経路で、最近では、がん細胞の悪性化との関連が示唆されています。今回の研究でmTORC2シグナル伝達経路は、細胞膜脂質のスフィンゴミエリンの輸送を制御するという新たな役割を担っていることが明らかになりました。この発見は、上皮細胞に由来する様々な疾患に対する新たな治療法を開発する上で基礎となる知見です。
 本研究成果は、2022 年 3月 23 日(水)午後 6 時(日本時間)に米国科学雑誌『Journal of Cell Biology』に掲載されました。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

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