〜起源品種のハプロタイプの遺伝を自動的に追跡する方法の開発〜
ポイント
・国内のリンゴ品種群において、主な起源品種のハプロタイプ(注 1)の遺伝を自動的に追跡する方法を開発しました。
・ゲノムワイド関連解析(GWAS)(注 2)では、果皮の着色が良いリンゴの育成に利用されてきた可能性がある起源品種のハプロタイプを明らかにしました。
・ゲノミックセレクション(GS)(注 3)予測モデルの評価では、果実のリンゴ酸含量などを高い精度で予測ができ、品種改良の効率化が期待されます。
概要
国内のリンゴ品種は主に 7 つの起源品種に由来しているため、14 種類のハプロタイプが存在すると考えられます。これらのハプロタイプの遺伝を正しく追跡することができれば、国内品種が持つ性質の多様性を、より正確に理解することができる可能性があります。東京大学、農研機構および九州大学の研究グループは、これら 14種類のハプロタイプの遺伝を自動的に追跡する手法を開発しました。この手法を用いることで、研究に供試した全リンゴ個体の 92%のゲノム領域を、 14種類のハプロタイプ情報で表すことができました。このハプロタイプ情報を利用したゲノムワイド関連解析(GWAS)では、果皮の着色が良いリンゴの育成に利用されてきた可能性がある起源品種のハプロタイプを明らかにしました。さらに、ゲノミックセレクション(GS)予測モデルの評価では、果実のリンゴ酸含量などを高い精度で予測しました。起源品種のハプロタイプ情報は、個体の系譜情報と組み合わせて遺伝を可視化することで、リンゴの品種改良の歴史を紐解くことができます。今回新しく見いだした有望な起源品種のハプロタイプは、今後の新品種開発への利用も期待されます。
用語解説
(注 1) 起源品種のハプロタイプ
ほとんどのリンゴは二倍体ですので、2本の相同染色体が存在します。そのうちの1本は母方から、もう1本は父方から受け継いでいます。本研究では、この1本の染色体を1つのハプロタイプとして定義しています。
(注 2) ゲノムワイド関連解析(GWAS)
多数の品種・系統における DNA の違い(マーカー遺伝子型)と性質(表現型)の関係を数式によってモデル化し、表現型と関連するマーカー遺伝子型の違いを統計的に検出する手法です。表現型と関連するマーカー遺伝子型の違いが明らかになれば、そのマーカー遺伝子型の近傍を探索することで、表現型を制御する候補遺伝子を同定することができます。
(注 3) ゲノミックセレクション(GS)
DNA の違い(マーカー遺伝子型)の情報をもとに、個体の遺伝的能力を予測して選抜する方法です。マーカー遺伝子型と性質(表現型)のデータについて、多数の品種・系統をトレーニングデータとして両者間に見られる関係を数式によってモデル化し、その「予測モデル」に基づいて、個体の遺伝的能力を予測します。芽生えの段階で将来できる果実の性質を予測することも可能です。果樹は一般的に交配育種に長い年月を要します。また、個体サイズが大きいために多数の個体を選抜対象にできず、新品種の育成が容易ではありません。ゲノミックセレクションは、芽生えの段階で多くの優れた個体を選抜できるため、品種改良の効率を向上できる可能性があります。
詳細
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