“超”高放射性粒子:福島第一原発1号機から放出されたメガベクレル放射性粒子の化学とその環境影響

“超”高放射性粒子:福島第一原発1号機から放出されたメガベクレル放射性粒子の化学とその環境影響

 九州大学大学院理学研究院の宇都宮聡准教授、諸岡和也大学院生(理学府修士課程2年)らの研究グループは、福島第一原発1号機から放出された福島第一原発から放出された“超”高放射性のセシウム含有粒子を発見し、その化学的・物理的特性を多角的な分析によって明らかにしました。国立極地研究所、筑波大学、東京工業大学、フィンランドHelsinki大学、仏Nantes大学、英Diamond放射光、米Stanford大学との共同研究の成果です。
 2011 年の福島原子力災害により原発から放出された放射性セシウムは水溶性と難水溶性の形態をしていました。今回、これまでに福島で報告されてきた難水溶性粒子の中で最も放射能の高い微粒子を、双葉駅方面に伸びる局所的な高線量帯から発見しました(図1)。この高線量帯は1号機の水素爆発の際に形成されたものです。単離した全31個の粒子の中から発見された2つの“超”高放射性粒子(FTB1とFTB26)の粒径は数百µm~数mmで、それらの134+137Csの放射能は2011年時点に換算するとFTB1が0.61メガベクレル、FTB26が2.5メガベクレルとなりました。(メガは106。ベクレルは1秒間に放射線が出る回数または崩壊する原子数。現在はそれぞれFTB1が 0.27メガベクレル、FTB26は1.1メガベクレルと計算されます。) また134Cs/137Cs放射能比は0.97と0.95を示し、1号機由来の放射性粒子であることが確認できます。これらの粒子を電子顕微鏡、3次元X線CT、シンクロトロン放射光マイクロビームX線分析及び二次イオン質量分析を駆使して多角的に構造、組成分析を実施しました。

 1つ目の“超”高放射性粒子FTB1は酸素、アルミニウム、ケイ素、鉄を主成分として、非晶質かつナノ細孔を保持した構造を呈し、~1 wt%のCsが一様に分布していました。
 2つ目の“超”高放射性粒子FTB26は内部が低密度かつ多数の空孔をもつコア物質で構成され、表面には多様な微粒子が埋め込まれた組織を呈していました。組成分析の結果、コア物質は炭素のみからなり、その表面に埋め込まれていた微粒子は、アルミノケイ酸塩ガラス繊維、スズ―鉛合金、カルシウム炭酸塩、石英、等の様々な物質から成り、1号機水素爆発発生の瞬間に建屋内に充満していた浮遊微粒子を捕獲して外部へ放出したものと考えられます。これから、爆発の瞬間に建屋内部に浮遊していた粒子の平均組成を決定することができました。

 今回発見した“超”高放射性粒子が外部被爆で人体に与える影響は少ないと考えられますが、濾過摂食する生物等への影響は考慮する必要があります。また、表層環境中における高線量の動きに大きく寄与しており、粒子分布の経時変化はセシウムの移行モデルにも大きく影響を与えると考えられます。一方で、このような“超”高放射性の粒子を環境中から取り除くことで効率的に空間線量を減らすことができると期待されます。
 本研究は、文部科学省の科学研究費挑戦的萌芽研究(16K12585)の支援を受けて行われたものです。また、本研究成果は、2021年2月15日(月)に国際誌「Science of the Total Environment」に掲載されました。

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九州大学プレスリリースをご参照ください。

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