機械学習で屈折コントラストCTの高速領域分割解析を実現

 ~ エポキシ樹脂系で有効性を実証 ~

概要

 理化学研究所(理研)放射光科学研究センター利用システム開発研究部門物理・化学系ビームライン基盤グループの濵本諭リサーチアソシエイト、先端放射光施設開発研究部門制御情報・データ創出基盤グループの初井宇記グループディレクター、同部門制御情報・データ創出基盤グループの城地保昌チームリーダー、利用技術開拓研究部門法科学研究グループの瀬戸康雄グループディレクター、計算科学研究センター高性能ビッグデータ研究チームの佐藤賢斗チームリーダー、九州大学大学院工学研究院応用化学部門の田中敬二主幹教授らの共同研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」[1]での放射光屈折コントラストX線CT[2]データについて、機械学習[3]と転移学習[4]を適用することで高速かつ正確な領域分割(セグメンテーション)を実現し、実際に接着樹脂中のドメイン構造(特定の性質を共有する領域)の可視化および特徴量(データの特徴を数値化したもの)の抽出を行いその有効性を実証しました。
 放射光X線CTは複雑な材料をナノレベルで可視化できる手法です。樹脂などの場合はCT像のコントラストが低いため、試料の境界を強調することのできる屈折コントラスト法がよく用いられます。得られたCT像を材料ごとの領域に分割するデータ処理は、セグメンテーションと呼ばれる重要な解析ステップです。ただ、これまで放射光X線屈折コントラストCTに関する汎用的なセグメンテーション解析方法は知られていませんでした。
 今回、医科学用に開発された深層ネットワークモデルに転移学習を組み合わせることで、極めて高速なセグメンテーション解析に成功しました。この手法を実際にエポキシ樹脂内の水領域の可視化に適用し、その有効性を実証しました。本研究によって実証された領域分割手法は、低コントラストX線CT画像の新しい汎用的な解析手法として、多くの放射光施設で幅広く利用されていくものと期待されます。
 本研究は、科学雑誌『Science and Technology of Advanced Materials: Methods』のEditor’s choice collectionに選定され、オンライン版(11月14日付)に掲載されました。

用語解説

[1] 大型放射光施設「SPring-8」
SPring-8(スプリングエイト、Super Photon ring 8GeVの略)は兵庫県播磨科学公園都市にある世界最高レベルの放射光を利用することのできる大型放射光施設である。放射光とは光速近くまで加速された電子が磁石によって進行方向を曲げられる際に生じる電磁波のことであり、基礎研究から産業利用まで幅広い分野で利用されている。
[2] X線CT
X線CT(Computed Tomography)はX線を用いたコンピュータ断層撮影のことである。X線を試料に照射することで、試料の内部構造を反映したX線透過2次元画像を得る。試料を回転させながらX線透過画像を取得し、コンピュータ上で3次元データに再構成することで試料の内部構造を非破壊で観察することができる。X線CT画像のコントラストは物質中の電子密度に依存する。
[3] 機械学習、深層学習
機械学習とはコンピュータが膨大な量のデータを読み込み、データ中のルールやパターンを学習することで、未知のデータの解析や未来予測を行うことができる技術である。深層学習は人工知能(AI)や機械学習の一種に位置付けられる。深層学習ではデータ中の学習すべき特徴量をコンピュータ自身が判断するため、人間の作業量が少なく精度のよい分析ができる点に優位性がある。機械学習や深層学習は画像処理や自動運転、データ分析や予測などさまざまな分野で利用されている。
[4] 転移学習
転移学習は学習済みのモデルを異なる領域の学習に適用させることである。学習済みのモデルを活用するため、少ない量のデータで高い精度を得ることができ、学習時間の短縮につなげられる。

詳細

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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