触っただけで痛みがでるのはなぜ?

―厄介な痛みに重要な神経細胞を特定―

概要

 がんや糖尿病、帯状疱疹、脳梗塞などで神経系が障害を受けた場合、神経障害性疼痛と呼ばれる慢性疼痛が発症することがあります。その発症機序は分かっておらず、また抗炎症性解熱鎮痛薬などの一般的な薬では抑えることができません。特に、皮膚に軽く触れるような刺激でも痛みがでる「アロディニア」という症状はモルヒネも効き難く、治療に難渋するとても厄介な痛みです。皮膚からの触覚と痛覚信号はそれぞれ区別された神経を伝わるため、通常であれば触刺激で痛みがでることはありませんが、神経系が障害を受けた場合、なぜ触覚が痛覚に誤変換されてしまうのでしょうか?今回の研究では、その変換メカニズムの解明につながる重要な結果を得ることができました。

内容

 九州大学大学院薬学研究院薬理学分野の津田誠主幹教授、田島諒一大学院生(当時)、古賀啓祐大学院生、吉川優大学院生および新潟医療福祉大学健康科学部健康栄養学科の八坂敏一教授らの研究グループは、脊髄の表層に局在するある特別な神経細胞(※)の活動が神経障害後に低下することを発見し、それがモルヒネも効きにくい神経障害性アロディニアの原因であることを世界で初めて明らかにしました。また、神経に障害を受けていない正常のネズミで、この神経細胞の活動を人工的に低下させると、それだけでアロディニアの発症を再現することができました。さらに、神経障害後に低下した神経活動を高めることで神経障害性アロディニアを緩和することにも成功しました。したがって、今回特定した神経細胞の活動を高める化合物が見つかれば、神経障害性疼痛などの慢性疼痛に有効な治療薬の開発に新しい大きな道筋をつくることが期待されます。

 本研究成果は、2021年1月12日(火)午前5時(日本時間)に米科学誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』のオンライン版で公開されました。

用語解説

1.脊髄の表層に局在するある特別な神経細胞
神経ペプチドYのプロモーターで制御できる神経細胞。脊髄の第II層外側に存在する。この神経は相手の神経細胞を抑制する作用を有する、抑制性介在神経である。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

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