冬季西日本における極端降水量の数年先までの潜在的予測可能性を実証

理学研究院
望月 崇 准教授

異常天候の中長期的な予測の実現に繋がると期待

ポイント

・数年程度の気候変動予測は、気候変動に対する施策決定の基盤となる予測情報を提供します。大気海洋結合モデル(※1)を用いた膨大な予測計算では、グローバルな気候変動の予測情報を得られる一方で、極端な気象現象やそれに伴う局所的な降水量の変動の予測情報を直接得ることは困難です。
・本研究では、精度良く予測情報を得ることができるグローバルな気候変動を大気海洋結合モデルによる気候変動予測データセットから特定するとともに、その気候変動に付随して起こりうる極端降水量の変動を、高い空間解像度をもつ大気モデル(※2)による過去再現データセットから確率論的に同定しました。これにより、冬季の東アジアとりわけ西日本地方で起こりうる極端降水量について、数年先までの潜在的な予測可能性を実証することに成功しました。
・本研究の成果は、異常天候や極端な気象現象の強度について中長期的な予測の実現に繋がることが期待されます。

概要

数年程度の気候変動予測は、気候変動に対する施策決定の基盤となる予測情報を提供します。大気海洋結合モデルを用いた気候変動予測では、膨大な数値計算(数値シミュレーション)からグローバルな気候変動の予測情報が得られます。一方、同様の手法で極端な気象現象に伴う局所的な降水量の変動の予測情報を直接的に得ようとした場合には、より高い空間解像度をもつ大気海洋結合モデルを用いた多数のアンサンブル計算(※3)が必要であり、計算量の著しい増加を伴うことから現時点では実施が困難です。
 九州大学大学院理学研究院の望月崇 准教授は、計算量の著しい増加を伴う直接的な予測計算に代えて、大気海洋結合モデルによる気候変動予測データセットと高い空間解像度をもつ大気モデルによる過去再現アンサンブル計算データセットを併用して、極端な気象現象に伴う局所的な降水量の予測情報を得ることに成功しました。とりわけ1961年以降の西日本地方に対する検証では、日別降水量においてひと冬あたり上位1%にあたる極端な降水量の数年ごとの多寡が、大気海洋結合モデルで精度良く予測可能なグローバル気候変動成分である“海盆間変動”(Trans-Basin Variability)(※4)の動向に強く追随することがわかり、3年先までの起こりうる極端な降水量の多寡に潜在的な予測可能性が実証されました。
 本研究成果は、将来の気候変動予測、とりわけ異常天候や極端な気象現象の強度について中長期的な予測の実現に繋がることが期待されます。
 本研究成果は、米国地球物理学連合(American Geophysical Union)の国際科学誌「Geophysical Research Letters」に2024年6月1日(土)(日本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1) 大気海洋結合モデル
大気と海洋の状態を同時に推定する数値モデルです。物理方程式に基づいて大気と海洋の変動を数値的に解きながら、計算される熱や物質、運動量の情報を矛盾なく交換して相互の数値計算に反映させていき、一つの結合システムとして状態推定をおこないます。本研究で使用した数年規模の気候変動予測データセットは、MIROC5とよばれる大気海洋結合モデルに基づきます。

(※2) 大気モデル
大気の状態を推定する数値モデルです。海水温や海流の計算はおこなわないため、何らかのデータを境界条件として入力しながら状態推定をおこないます。本研究で使用したd4PDFデータセットには、過去の観測データに基づく海面水温データを入力した計算結果が収録されています。

(※3) アンサンブル計算
大気と海洋の変動は非線形性が強いため、予測計算をおこなうときの初期状態のわずかな違いや境界条件のわずかな違いが計算結果に大きな違いをもたらします。そのような不確実さを推定するための有効な手段のひとつとして、初期状態や境界条件をわずかに変化させて多数の計算が実施されます。アンサンブル計算の結果は確率論的な考察を可能にするため、極端な気象現象のように発生頻度が低い現象の特徴も捉えられるようになります。

(※4) 海盆間変動(Trans-Basin Variability)
主に熱帯域の太平洋と大西洋の海面気圧や海面水温が数年規模でシーソーのように変動する現象です。インド洋から西太平洋の一部における海面気圧も概ね大西洋に同期します(図1)。

研究に関するお問合せ先

理学研究院望月崇准教授

詳細

本研究の詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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