難治性⼩細胞肺がんの新たなる治療法を発⾒

〜難治性がんの根底に秘められた悪性化メカニズムを解明〜

ポイント

・⼩細胞肺がんではHPRT1 という核酸代謝酵素が最も発現上昇しており、⼩細胞肺がんの悪性化に寄与する。
・HPRT1 を阻害する抗がん剤である6-MP が⼩細胞肺がんの増殖を顕著に抑制する。
・6-MP に加え、新規核酸合成反応を阻害するMTX と宿主のグルタミン合成阻害剤であるMSO の併⽤は⼩細胞肺がん患者の予後を改善する効果的治療法となる可能性がある。

概要

 ⼩細胞肺がんは5年⽣存率が7%と全てのがん種の中でも最も予後不良であり、「治療困難ながん」と称される⾮常に悪性度が⾼い腫瘍です。しかし、⼩細胞肺がんには特異的かつ効果的な治療法が存在しないことから、⼩細胞肺がんにおける新規治療法の確⽴が待望されていました。
 そのような中、今回九州⼤学⽣体防御医学研究所の中⼭ 敬⼀ 主幹教授、⼩⽟ 学 助教、九州⼤学⼤学院 消化器・総合外科の吉住朋晴先⽣、豊川剛⼆先⽣の研究グループは、⼩細胞肺がんの悪性化に必須の代謝メカニズムを標的とした効果的治療法を樹⽴しました。
 最初に、本研究グループは独⾃に開発したプロテオミクス技術であるiMPAQT(※1)システムを⽤いて、ヒト⼩細胞肺がんの悪性化過程の網羅的代謝酵素発現変化を追跡しました。その結果、⼩細胞肺がんでは、DNA とRNA のもととなる核酸の合成を促す代謝酵素群の発現上昇が最も顕著に⽣じていることを発⾒しました。核酸の合成にはグルタミンを利⽤して新規の核酸を合成する経路と、核酸の分解産物であるヒポキサンチンを利⽤して核酸を再合成するサルベージ経路があり、サルベージ反応はHPRT1(※2)という代謝酵素が担っています。⼩細胞肺がんでは核酸合成酵素群の中でもこのHPRT1 の発現上昇が最も顕著に⽣じていることが明らかになりました。これらの結果から本研究グループはHPRT1 を阻害する抗がん剤である6-MP(※3)を患者由来⼩細胞肺がん移植したマウスに投与したところ、腫瘍の増殖を効果的に抑えることが明らかになりました。6-MPに加え、DNA とRNA の新規合成経路を阻害する抗がん剤であるMTX(※4)と、新規核酸合成に必須の栄養基質であるグルタミン合成阻害剤であるMSO(※5)を併⽤したところ、腫瘍抑制効果が⾶躍的に増強することを突き⽌めました。この6-MP、MTX、MSO の3剤併⽤効果は既存療法の効能を超越する可能性を秘めた⼩細胞肺がん患者の新たなる治療法となることが期待されます。
 本研究結果は、⼩細胞肺がんに対する新規的治療法を新たに提案するものであり、今後の臨床への応⽤が期待されます。本研究成果は⽶国の雑誌「Cell Reports」に2023 年8 ⽉3 ⽇(⽊)(⽇本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1) iMPAQT システム (in vitro proteome-assisted MRM for Protein Absolute QuanTification):ヒト細胞に発現する約18000 種類のタンパク質の絶対定量を可能とした質量分析システム。iMPAQTシステムによりがん細胞に発現する約1200 種の全代謝酵素の定量も可能となります。
(※2) HPRT1 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ):プリン塩基を利⽤してDNA、RNA などの核酸の合成を⾏う代謝酵素。
(※3) 6-MP:HPRT1 の代謝反応を直接的に阻害する抗がん剤。
(※4) MTX:新規核酸合成に必須の葉酸合成を阻害する抗がん剤。
(※5) MSO:細胞内、体内でのグルタミン合成反応を阻害する阻害剤。哺乳類動物にMSO を投与すると体内でのグルタミン合成が阻害され、⾎漿中のグルタミン量が減少しがん細胞のグルタミン取り込み量が減少する。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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