⾼性能電解質材料におけるプロトン導⼊反応の活性サイトを世界初解明

~ 中温で動作する固体酸化物形燃料電池の開発を加速 ~

ポイント

・酸化物におけるプロトン伝導発現の起源となる局所構造の同定は、1981 年にプロトン伝導体が発⾒されて以来、未解明の難問
・性能固体電解質材料におけるプロトン導⼊活性サイトを世界で初めて発⾒
・今後、局所構造最適化による中温動作固体酸化物形燃料電池電解質の加速的開発に期待

概要

 九州⼤学エネルギー研究教育機構(Q-PIT)および⼤学院⼯学府材料物性⼯学専攻の星野健太博⼠(研究当時)、兵頭潤次特任助教、⼭本健太郎特任助教(研究当時)、⼭崎仁丈教授の研究グループと⼭形⼤学学術研究院の笠松秀輔准教授は、九州シンクロトロン光研究センターの瀬⼾⼭寛之博⼠およびあいちシンクロトロン光センターの岡島敏浩副所⻑らと共同で、400℃動作固体酸化物形燃料電池(SOFC)注1) の電解質として期待されているプロトン(H+)伝導性酸化物注2) において、プロトン導⼊反応が起きる局所構造(活性サイト)を明らかにしました。これは、実験とデータ科学、計算科学を融合することにより、世界で初めて得られた研究成果です(図1)。本研究で得た知⾒をもとに、局所構造の最適化を基盤とした新たな材料設計戦略を⽴てることで、プロトン伝導性電解質や中温動作固体酸化物形燃料電池の開発が⼤幅に加速されることが期待されます。
 アクセプター注3) 置換したペロブスカイト酸化物注4) は、⽔蒸気を取り込み材料中にプロトンを導⼊することで、⾼いプロトン伝導性を⽰すことが知られています。⽔和反応はプロトン伝導発現の起源となる反応であるため、⽔和反応を活性化する局所構造の同定は、1981 年にプロトン伝導体が発⾒されてからこれまで数々の研究者が挑戦してきた難問ですが、局所構造を実験的にプローブできるX 線吸収分光法や固体核磁気共鳴法(NMR)の適⽤が室温環境に限定されていたため、今⽇まで未解明のままでした。
 本研究グループは、ペロブスカイト酸化物の中でも既報の中で最⾼レベルのプロトン伝導性と化学的安定性を兼ね備えたSc 置換ジルコン酸バリウムに着⽬し、放射光を⽤いたその場注5) ⽔和実験、スーパーコンピュータと機械学習を活⽤した⼤規模シミュレーションおよび精密熱重量分析を組み合わせることにより、⽔和反応を活性化する材料中の局所構造を多⾓的に調査しました。その結果、スカンジウム(Sc)とジルコニウム(Zr)および⼆つのSc に挟まれた酸素⽋損⽋陥が⽔和反応の局所活性サイトであることを特定し、その温度依存性を明らかにすることに成功しました。
 本研究成果は、2023年3⽉14⽇に⽶国化学会の国際学術誌「Chemistry of Materials」のオンライン速報版で公開されました。

用語解説

注1) 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
固体酸化物を電解質として⽤いた燃料電池。SOFC 固体酸化物形燃料電池の英語名 (Solid Oxide Fuel Cells) の頭⽂字を取った略称。さまざまな燃料電池の種類の中で、最も⾼いエネルギー変換効率を有することが知られている。ただ、⼀般に固体酸化物は700〜1000℃という⾼い動作温度でないと⾼いイオン伝導性を⽰さず、構成する材料が⾼価なものに制限される。動作温度を下げることで、材料コストや運転コストの低減が期待できる。燃料電池は⽔素と酸素を利⽤した次世代の発電システムであり、⽔の電気分解と逆の原理によって⾼効率に発電することができる。
注2)プロトン伝導性酸化物
プロトン(H+)伝導性を有する酸化物。
注3)アクセプター
注⽬している元素の酸化数より⼩さな酸化数を有する元素。
注4)ペロブスカイト酸化物
⼀般式ABO3 で表され、結晶構造⽴⽅体単位格⼦の頂点にA 原⼦、⾯の中⼼に酸素原⼦、体⼼にB 原⼦を配置した結晶構造を有する酸化物(図2に⽰す結晶構造)。A,B サイトのホスト構成原⼦や、⼀部を異種元素で置換することでイオン伝導性、電⼦伝導性、強誘電性、触媒活性などの機能を発現できる。
注5)その場
実際に材料が利⽤されるような温度、湿度などの条件下で⾏う計測実験のことをその場計測やその場実験などと呼ぶ。

詳細

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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