〜 持続的で低コストな水処理技術の実現に期待 〜
九州大学大学院総合理工学府のサイマ・カノム大学院生、同大学院総合理工学研究院の林信哉教授らの研究グループは、酸素を放電させて生成される酸素プラズマ(活性酸素)により、水中の重金属イオンを効果的に酸化・沈殿させることが可能な新しい溶存金属除去方法を開発しました。
飲料水の重金属汚染は、今日の汚染問題の中で最も複雑かつ解決困難な問題のひとつです。水の重金属汚染には、人為的と天然の2つの主要な供給源があります。産業汚染物質といった人為的な重金属発生源は改善の可能性がありますが、火山活動や岩石の風化のような天然の発生源の場合は原因を断つことが出来ません。このような天然由来のヒ素や鉛等の重金属で汚染された水を飲料水としなければならない地域が世界中に散在しています。しかしながら、薬剤等の消耗品を必要とせず持続的に低コストで使用可能な溶存重金属除去方法はこれまで開発されていませんでした。
本研究では、酸素の放電プラズマにより生成したオゾンを、亜鉛を溶解させた水に曝気させました。その結果、水中でオゾンが解離することで発生した反応性の高い活性酸素と亜鉛イオンとが効率的に反応し、亜鉛酸化物(ZnO,Zn(OH)2)が沈殿物として生成されることが分かりました。亜鉛イオンの濃度と曝気するオゾンの濃度により亜鉛溶存水のpH値をコントロールすることが可能であり、pHが7.5程度のときに亜鉛酸化物の沈殿量が最大になることが明らかとなりました。亜鉛酸化物の沈殿物を除去することで水中の溶存亜鉛イオンを最大で29%程度減少させることができます。
今回開発した方法は原理的にヒ素や鉛の除去にも適用可能なことから、飲料水の重金属汚染で苦しんでいる世界中の人たちに安全な水を届ける技術につながると期待されます。
本研究成果は、2021年4月28日(日本時間18:00)付けで英国科学雑誌「Scientific Reports誌」に掲載されました。(DOI https://doi.org/10.1038/s41598-021-88466-3)
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