月面の砂でも見つけた!金属鉄のひげ状結晶
九州大学基幹教育院の松本徹JSPS特別研究員、野口高明教授らのグループは、米アポロ11号,17号で回収された月の試料を分析し、月面の砂では全く知られていない金属鉄のひげ状結晶を発見しました。ひげ状の金属鉄は、探査機はやぶさが回収した小惑星イトカワの砂で初めて見つかった結晶であり、砂の来歴や天体表面の化学進化を知る手がかりになると期待されます。
ひげ状金属鉄は硫化鉄(鉄Feと硫黄Sの結晶)の表面で見られます。硫化鉄表面の硫黄は太陽から吹くイオンの流れである太陽風や隕石衝突の加熱によって吹き飛ばされ、余った鉄原子を元にひげ状金属鉄が成長すると考えられます。ひげの内部には多数の鉄結晶が含まれ、その結晶の方向がお互いに関連しながら、根元から結晶が次々に生まれてひげ状金属鉄が成長した様子が電子顕微鏡による観察から明らかになりました。本研究から、ひげ状金属鉄は、大気のない太陽系の天体に共通して成長しており、砂が経験した天体表面のイベントを知る新しい指針となることが分かりました。
月の砂の硫黄は岩石よりも重い同位体に富み、硫化鉄から硫黄が失われることがその同位体異常の原因だと長い間予想されてきました。今回の発見はその予想を裏付ける初めての鉱物学的な証拠となります。硫化鉄から失われた硫黄の一部は月面の重力圏を脱出せずに月面を旅するかもしれず、最終的には月面の氷の中に捕まり月面氷の化学組成に影響する可能性があります。
本研究は2021年3月4日付で国際誌「Geochimica Cosmochimica Acta」に掲載されました。
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九州大学プレスリリースをご参照ください。