PPR-DYWタンパク質の結晶構造解析から、精密なC→U RNA編集の仕組みを解明
農学研究院
寺本 岳大 助教/角田 佳充 教授
ポイント
・植物のミトコンドリアや葉緑体では、PPR-DYWタンパク質(※1)がRNAの特定のC塩基をU塩基に精密に書き換えるRNA編集(※2)を担っており、この仕組みは植物の生育に不可欠である。しかし、その精密な編集がどのような分子機構で行われるかは不明であった。
・PPR-DYWタンパク質が標的RNAと結合した状態の立体構造を世界で初めて決定し、PPRドメインとDYWドメインが連携して狙ったC塩基を正確に編集するメカニズムを解明した。
・本研究は、PPR-DYWタンパク質が持つ高い標的特異性の構造的基盤を初めて示すものであり、狙ったRNA配列を精密に編集できるツールの設計・開発への応用が期待される。
概要
生物は、設計図であるDNAと、その情報を写し取ったRNAを使って生命活動を営んでいます。どちらもA・C・G・U(T)という4種類の塩基の並び順が遺伝情報を担っており、この情報に従ってタンパク質が作られます。ところが生物においては、DNAをRNAに写し取った後に設計図の情報を書き換える「RNA編集」を行う場合があります。植物の葉緑体やミトコンドリアでは特に精密な編集が行われており、RNA上の数万にのぼるC塩基の中から、狙ったC塩基だけを正確にU塩基へと書き換えます。この植物に特有のRNA編集の仕組みは、光合成や呼吸に必要なタンパク質の合成に不可欠であり、これを担う酵素が「PPR-DYWタンパク質」です。しかし、PPR-DYWタンパク質がもつPPRドメインとDYWドメインがどのように連携してこの精密な編集を実現しているのか、その仕組みはこれまで謎のままでした。
九州大学大学院農学研究院の寺本岳大助教、角田佳充教授、岡田あゆみ氏、生物資源環境科学府の漆原良太氏、青山玲也氏(当時)らの研究グループ(生物物理化学研究室)は、同農学研究院の中村崇裕教授およびエディットフォース株式会社との共同研究で、生物情報学的手法を用いてコンセンサスPPR-DYWタンパク質(※3)を設計し、その構造機能解析を行いました。大型放射光施設SPring-8(※4)(ビームラインBL45XU)を用いたX線結晶構造解析(※5)により、PPR-DYWタンパク質が標的RNAを認識・編集する瞬間の立体構造を世界で初めて明らかにしました。この構造をもとに生化学的解析を組み合わせることで、PPRドメインが狙ったC塩基の上流配列を認識し、2つのドメインが適切な位置関係をとることでDYWドメインが狙ったC塩基を正確にU塩基へと変換するという精密な編集の仕組みを解明しました。
本成果は植物RNA編集の根本的な分子メカニズムの解明にとどまらず、PPR-DYWタンパク質の特性を活かした、狙った1か所のC塩基をU塩基に精密に変換できるRNA編集ツール(※6)の開発基盤を提供するものです。
本研究成果は、英国の科学雑誌「Nature Communications」に2026年4月27日(日本時間)に掲載されました。
本研究グループ(九州大学)からひとこと
大型放射光施設SPring-8のビームラインを活用でき、今回のような「らせん状」の美しく印象的な構造を捉えることができました。2つのドメインが協力して精密なRNA編集が行われる仕組みが明らかとなり、研究の面白さを改めて実感しました。
用語解説
※1 PPR-DYWタンパク質
植物に特有のRNA編集酵素。標的RNA配列を読み取るPPRドメインと、C塩基をU塩基へと変換するDYWドメインから構成される。PPR(Pentatricopeptide Repeat)ドメインは、35アミノ酸からなるモチーフの繰り返しからなる構造を持ち、各モチーフがRNA上の1塩基を認識する。DYWドメインはC末端に存在する保存配列「Asp-Tyr-Trp(D-Y-W)」に由来する名称で、亜鉛イオンを活性中心に持つ。モデル植物であるシロイヌナズナでは数百種類が存在し、それぞれが特定の編集部位を担当する。
※2 RNA編集
DNAをRNAに読み出した後、RNA上の特定の塩基を酵素によって別の塩基へと書き換える現象。植物以外にも動物など様々な生物で見られる。
※3 コンセンサスタンパク質
多数の類似タンパク質のアミノ酸配列を比較・統計解析し、各位置で最も頻度の高いアミノ酸を採用して人工的に設計したタンパク質。天然のタンパク質より安定性が高く、結晶化しやすい利点がある。
※4 SPring-8
兵庫県にある世界最高レベルの大型放射光施設。非常に強力なX線を発生させることができ、タンパク質のX線結晶構造解析をはじめ、物質科学から生命科学まで幅広い分野に活用されている。
※5 X線結晶構造解析
タンパク質などの分子を結晶化し、X線を照射することで得られる回折データをもとに、原子レベルの立体構造を決定する手法。
※6 RNA編集ツール
細胞内のRNA配列を狙った位置で書き換える技術。DNAそのものを書き換えるゲノム編集と異なり、RNAレベルで一時的に塩基を変化させるため、遺伝情報を恒久的に改変するリスクを避けられる。「ポストゲノム編集」として近年注目を集めており、遺伝性疾患の治療や農作物の品種改良など、幅広い応用が期待されている。
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