同位体によるラマンスペクトル変化の起源を体系的に解明

フォルステライトの酸素同位体効果を第一原理計算で明らかに

理学研究院
荒川 雅 准教授

ポイント

・フォルステライト(※1)(Mg2SiO4)の酸素同位体(※2)効果を理論計算で体系的に解明
・ラマンスペクトルのピーク位置、分裂、広がりを生む物理機構を明らかに
・隕石・惑星物質の非破壊同位体分析の実現に期待

概要

 酸素同位体比は、地球環境や生命活動、さらには太陽系形成過程を解明するための重要な指標です。しかしながら、微小な鉱物粒子に対し、試料を破壊せずに同位体情報を取得することは難しく、新たな分析手法の確立が求められています。
 九州大学 大学院理学研究院の荒川雅 准教授は、かんらん石の一種であるフォルステライト(Mg2SiO4)において、含まれる酸素同位体(16O, 17O, 18O)比の違いがラマンスペクトルに与える影響を、第一原理計算(※3)により体系的に解明しました。
 これまで、同位体に応じて振動数が変化することは知られていましたが、部分的な同位体置換によってラマンスペクトルのピーク位置、分裂、広がりを生む物理機構を明らかにがどのように変化するのかについては、定量的かつ統一的な理解が十分ではありませんでした。
 本研究では、周期境界条件に基づく密度汎関数理論(DFT)計算を用いて、広い同位体組成範囲にわたるラマンスペクトルを再現し、スペクトル変化の起源を詳細に解析しました。その結果、

・質量効果によるピークの低波数シフト
・対称性低下によるラマン不活性モードの活性化
・置換サイト依存性によるピーク分裂
・多様な配置の平均化によるスペクトルの広がり
という複数の要因が組み合わさり、スペクトルが変化することが明らかになりました。
 さらに、既報の実験スペクトルとの比較により、主要なSi–O伸縮振動(約820、880、920 cm−1)の同位体依存性を定量的に再現することに成功しました。
 酸素同位体がラマンスペクトルのピーク位置、分裂、広がりをどう変えるのか、その物理的起源を第一原理計算で初めて体系的に示した本研究成果は、マイクロラマン分光による高空間分解能同位体分析の理論基盤を提供するものであり、隕石中のプレソーラー粒子(※4)や地球深部物質の非破壊同位体分析への応用が期待されます。
 本研究成果は米国の雑誌「The Journal of Physical Chemistry C」に2026年4月22日(水)(日本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1)フォルステライト:化学式 Mg2SiO4で表されるケイ酸塩鉱物で、かんらん石のマグネシウム端成分。地球や隕石中に広く存在し、惑星物質の形成や進化を考えるうえで重要な鉱物である。
(※2) 同位体:同じ元素でありながら、中性子の数が異なるため質量が異なる原子のこと。
(※3) 第一原理計算:実験に頼らず、量子力学の法則に基づいて原子や電子の振る舞いを計算する手法。物質の構造や安定性、スペクトルの起源などを理論的に調べることができる。
(※4)プレソーラー粒子:現在の太陽系ができる前に恒星や超新星などで形成された鉱物粒子。特異な同位体組成を持ち、星や太陽系の起源や形成過程を探る手がかりとなる。

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