ILC3分化を制御する新たな遺伝子制御機構を解明-感染症制御やアレルギー疾患への応用に期待-
生体防御医学研究所
澤 新一郎 教授
ポイント
・ILC3(※1)分化を制御するRORγt遺伝子の新たな発現制御機構を発見
ILC3の分化に必須の転写因子RORγt(※2)遺伝子が、分化段階ごとに異なるシス制御領域(※3)によって段階的に活性化されることを明らかにしました。
・自然免疫細胞と獲得免疫細胞で異なる遺伝子制御機構を解明
ILC3などの自然免疫系細胞と、胸腺細胞やTh17細胞(※4)などの獲得免疫系細胞では、RORγt遺伝子発現の制御に利用されるシス制御領域が異なることを示しました。
・感染防御や炎症性腸疾患治療への応用に期待
RORγt遺伝子発現の制御によるILC3分化誘導は、粘膜バリア機能や免疫組織形成の強化を通じて、感染症防御や炎症性腸疾患治療への応用が期待されます。
概要
自然免疫を担う3型自然リンパ球(ILC3)は、腸管などの粘膜組織において病原体防御や免疫組織形成に重要な役割を果たします。ILC3の分化には転写因子RORγtが必須ですが、その遺伝子発現がどのように制御されているかは十分に理解されていませんでした。
九州大学生体防御医学研究所の澤新一郎教授、九州大学大学院医学系学府の福井卓磨氏(兼:日本学術振興会 研究員)らの研究グループは、自然免疫系および獲得免疫系の各免疫細胞の分化過程において、RORγt遺伝子領域のクロマチンアクセス性(※5)の変化をATAC-seq(※6)により経時的かつ細胞種横断的に解析しました。さらに、バイオインフォマティクス解析(※7)により、RORγt遺伝子発現を直接制御する上流の転写因子ネットワークを同定するとともに、転写因子結合塩基配列に変異を導入した遺伝子改変マウスを作製してその機能を検証しました。その結果、ILC3への分化過程においてRORγt遺伝子が、分化段階ごとに異なるシス制御領域によって段階的に活性化されることを明らかにしました。本研究は、自然リンパ球分化を支える階層的な遺伝子制御機構の存在を示すものです。
本成果は、RORγt遺伝子発現の制御を介したILC3分化の人為的誘導という新たな免疫制御戦略の基盤となる可能性があります。将来的には、粘膜バリア機能の強化や免疫組織構形成の促進を通じて、感染防御や炎症性腸疾患などの治療への応用が期待されます。
本成果は米国の免疫学専門誌「Immunity」に2026年3月25日(水)午前0時(日本時間)に掲載されました。
研究者からひとこと
自らが16年前に発見に携わったILC3について、マスター制御因子RORγtの発現制御機構という本質的な問いに向き合うことができ、楽しい研究時間を過ごせました。細胞種ごとに異なるメカニズムでRORγtの発現が精緻に制御される仕組みを垣間見ることができ、免疫システムや発生メカニズムの奥深さに改めて感動しました。(澤新一郎)
用語解説
(※1) ILC3(3型自然リンパ球)
自然免疫に属するリンパ球で、粘膜での感染防御に重要。
(※2) 転写因子RORγt
免疫細胞の分化を制御する遺伝子発現の調節因子。
(※3)シス制御領域
遺伝子の近くに存在し、その発現を調整するDNA配列。
(※4) Th17細胞
獲得免疫に属し、3型免疫応答を担うT細胞。
(※5)クロマチンアクセス性
DNAの“開き具合”を表し、遺伝子が働きやすいかどうかの目安。
(※6) ATAC-seq
DNAの開きやすさ(クロマチン状態)を解析する手法。
(※7)バイオインフォマティクス解析
遺伝子などのデータをコンピュータで調べ、生命の仕組みを読み解く方法。
(※8)CNS (Conserved non-coding sequence)
タンパク質をコードしないものの進化的に高度に保存されたDNA配列で、エンハンサーなどの遺伝子制御領域として機能する。
(※9) 制御性T細胞(Treg)
免疫反応を抑える働きを持つT細胞。
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