遺伝子組換えを使わず、鉄を多く含むコメの開発に成功

~鉄欠乏性貧血対策につながる新しい育種技術~

農学研究院
熊丸 敏博 特任教授

ポイント

・遺伝子組換えを使わず、鉄含量を大幅に高めたイネ系統の開発に成功
・白米と玄米のどちらでも、鉄が増加することを確認
・亜鉛や銅も同時に増加しつつも、カドミウムなどの有害な重金属は増加せず
・アルカリ土壌など鉄欠乏環境でも生育・収量が維持

概要

東京農業大学 応用生物科学部の齋藤 彰宏 助教らの研究グループは、九州大学(熊丸 敏博 特任教授)、千葉大学(浦口 晋平 准教授)、東京大学(藤原 徹 教授)との共同研究により、遺伝子組換えを用いずに鉄含量を高めたイネ系統の開発に成功しました。本研究では、鉄欠乏応答を制御するHRZ1遺伝子1)に新規変異をもつイネ変異体を発見し、その変異を利用して鉄を多く含む実用的な育種系統を確立しました。

開発したイネでは、葉および玄米中の鉄含量が従来品種の約2~3倍に増加し、通常私たちが食べる白米(胚乳)部分にも鉄が多く蓄積することが確認されました。また、鉄が不足しやすいアルカリ土壌条件でも生育が維持されることが示されました。さらに、必須元素である亜鉛や銅も同時に増加しつつも、有害重金属(カドミウムなど)の吸収増加は認められませんでした。

本研究成果は、世界で約20億人が影響を受ける鉄欠乏性貧血の改善に向けた非遺伝子組換え型2)の新しい鉄栄養強化(バイオフォーティフィケーション)3)技術として期待されます。本研究成果は国際学術誌 Rice に2026年3月13日に掲載されました。

用語解説

1) HRZ1(Iron sensing ubiquitin ligase)
植物が鉄欠乏状態を感知し、鉄吸収関連遺伝子の働きを負に調節するタンパク質。本研究ではHRZ1遺伝子の変異により鉄吸収が強化され、イネ体内への鉄蓄積が増加した。

2) 非遺伝子組換え(non-transgenic)
外来遺伝子を導入する遺伝子組換え技術を用いない方法。本研究では突然変異育種と交配により鉄含量を高めた。

3) 鉄栄養強化(鉄バイオフォーティフィケーション)
サプリメントや食品添加ではなく、作物自体の栄養成分を高めて不足する栄養素を補うことを可能とする技術。

詳細

本件の詳細についてはこちら

お問い合わせ先

農学研究院 熊丸敏博特任教授

遺跡の土壌から過去の人のDNAが明らかに

自然免疫細胞ILC3分化を制御するRORγt遺伝子の「段階的スイッチ機構」を発見

関連記事

  1. 【作品募集8/1~】SDGs デザインインターナ…

    「未来の食文化」をデザインしよう!九州大学大学院芸術工学研究院が…

  2. フラーレン誘導体が光誘起超核偏極に有用であること…

    -高感度化MRIへの応用に必要な実用化レベルの高偏極率を達成-先導物質化…

  3. 【11/20開催】第105回サイエンスカフェ@ふ…

    「心肺蘇生について」〜とっさの時に人を救えますか?〜 「サイエンスカ…

  4. 上皮バリアを素早く再建する新たなメカニズムを発見…

    ~アトピー性皮膚炎などの上皮バリアの破綻による病態の解明や治療法の開発に繋が…

  5. 糖尿病の鍵・アディポネクチン受容体と同等の作用を…

    ~インスリン抵抗性の改善および抗糖尿病作用に期待~ 脂肪細胞から…

  6. 吸血生物マダニの血液を固まらなくする成分の活性化…

    ~ 新しいタイプの血液凝固阻害剤開発の基盤情報 ~ポイント・…

  7. 神経細胞の膜電位と細胞内カルシウムイオンの同時イ…

    膜電位と細胞内カルシウムイオンのコードする情報の違いを解明理学研究院…

  8. 染色体機能を支えるリング型タンパク質をDNAから…

    ~細胞の設計図であるDNAを安定に維持する反応の理解につながる~…