一重項分裂(SF)により増幅した励起子の効率的な捕集に成功

~量子収率130%を達成する鍵分子を発見、太陽電池の限界突破に道~

工学研究院
佐々木 陽一 准教授 / 君塚 信夫 教授(現:ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授)

ポイント

・1つの光子から2つの励起子(※1)を生み出す「シングレットフィッション(SF、一重項分裂)(※2)」は、従来型の太陽電池の理論限界を突破し、有機発光ダイオード(OLED)の効率を向上する夢の光変換技術として期待されています。
・本研究では、そのSFによって増幅した励起子を光エネルギーとして抽出するためにスピンフリップ発光体と呼ばれる「d電子系金属錯体(※3)」を活用する新しい手法を開発し、従来系の理論限界(100%)を大きく超える約130%の量子収率(※4)を達成しました。
・分子設計の自由度の高い錯体を用いた本技術により、今後太陽電池の効率向上が期待されます。

概要

太陽光エネルギーの効率的な活用戦略として、光吸収により生じる一重項励起子が分裂して2つの三重項(※5)励起子が形成されるSFが注目され、世界中で研究されています。分裂後の三重項励起子から電子を取り出せば、原理的に光電変換効率200%を達成できるものの、分裂前の一重項(※5)からのエネルギー損失過程が競合するため、変換効率を最大化することは困難です。そこで分裂後に生じる励起三重項エネルギーを高効率に受け取る分子が求められていました。

今回、九州大学大学院工学研究院の君塚信夫教授 (現 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授/名誉教授)、佐々木陽一准教授、同大学工学部のSifuentes-Samanamud Percy Gonzalo学部生(当時)、同大学院工学府の正岡亜樹大学院生、マインツ大学のSauer Adrian大学院生らは、d電子系金属錯体であるモリブデン錯体をエネルギーアクセプター(※6)として活用し、SF後の励起子からのスピン状態選択的なエネルギー移動を、溶液系において実現しました。モリブデン錯体の近赤外発光を用いた定量評価より、一般的な三重項増感の限界を超えた約130%のモリブデン励起二重項(※5)収量を確認するとともに、SF後のスピン量子もつれ三重項対(Triplet pair)(※7)からの三重項エネルギー移動過程の寄与を明らかにしました。これらの結果はモリブデン錯体のようなd電子系金属錯体が、SF後の増感効率向上に適した分子群であることを示しており、将来的に従来限界を超えた効率を示す太陽光発電や発光ダイオードへの応用が期待されます。

本研究成果は、2026年3月25日(水)午後11時(日本時間)に米国の国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

本研究グループからひとこと

応用化学部門が進めていた九大-マインツ大交換留学プログラムがきっかけとなり、SF(九大)とd電子系金属錯体(マインツ大)の化学を融合した本研究がスタートしました。今後光電変換デバイスの作製を進め、太陽光発電への応用を見据えた国際共同研究を展開していきます。

用語解説

(※1)励起子
クーロン引力の相互作用により結びついている電子・正孔のペア。

(※2)シングレットフィッション(SF、一重項分裂)
特定の有機分子において、1つの光子(光の粒)を吸収して生まれた1つの高いエネルギーを有する一重項励起子が、隣接する分子とエネルギーを分け合い、2つの低いエネルギーを有する三重項励起子に分裂する現象。

(※3)金属錯体
中心に金属イオンをもち、その周囲を別の分子(配位子)が取り囲んだ構造をもつ化合物。

(※4)量子収率
物質が吸収した光子(光の粒)の数に対して、目的とする反応が起きた割合を示す指標。

(※5)一重項・二重項・三重項
物質中の電子のスピン(自転)の向きの組み合わせによって分類されるエネルギー状態。

(※6)エネルギーアクセプター
光を吸収した他の分子(ドナー)から、エネルギーを受け取る役割をもつ分子のこと。

(※7)スピン量子もつれ三重項対(Triplet pair)
シングレットフィッションによって生じる、スピン量子もつれ状態にある2つの三重項励起子のペアのこと。シングレットフィッション直後では磁性のない一重項状態の三重項対が形成し、五重項や三重項状態へと時間発展する。

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工学研究院 佐々木陽一 准教授

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