生物の形作りのメカニズムをAIが画像から提案

研究者が行ってきた発見的プロセスを基盤モデルが継承

医学研究院
三浦 岳 教授

ポイント

・生物の形作りのメカニズムの推定は、これまで研究者が経験的に行ってきた
・AIを用いて、自然界のパターンの画像から形作りの数理モデルの提案とパラメータ推定を行う手法の開発に成功した
・今後、生物の形作りのメカニズムの解明が飛躍的に進むことが期待される

概要

生物の体には様々な美しいパターンが存在します。シマウマの体表、指紋や毛のような周期構造、血管や肺のような樹状構造など、生物のもつ構造は美しいのみならず機能的にも重要です。このようなパターン形成のメカニズムの解明は、これまで人間の研究者が生物学的な情報と数学、物理的な情報を組み合わせて行ってきました。しかしこの作業には、対象となる現象の生物学的知識と、候補となる数理モデル(※1)の数学、物理的な素養の双方が要求されるため、行える人が少なく、研究全体のボトルネックとなっていました。

今回、九州大学大学院医学研究院の三浦岳教授、今村寿子助教および医学系学府博士課程4年の菱沼秀和らの研究グループは、観察された生物学的パターンから適切な数理モデルを自動選択し、パラメータを推定する全く新しい手法を開発しました。既存の数理モデルが生成するパターンのデータベースとCLIP(※2)による潜在空間マッピング(※3)を用いて生物学的パターンからモデルを提案するシステムを構築し(図1)、さらにNGBoost(※4)を用いた近似ベイズ推論(※5)によって、Turingモデル(※6)におけるパラメータの推定を行う手法を考案しました。

近年、CLIPのような基盤モデル(※7)の性能の向上によって、研究における発見プロセスのような、これまで人でしか行えないと思われてきたタスクがAIによって代行されることが増えてきました。本研究によって、今後、生物の形作りのメカニズムの解明が飛躍的に進むことが期待されます。

本研究成果は米国の雑誌「PLOS Computational Biology」に2025年1月24日(金)午前4時(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

今回開発した近似ベイズ推論の手法は数理モデルの計算コストが大きい場合にも高速でパラメータを予測できます。この手法とデータの特徴をよく認識できるAIとを組み合わせることで、生物の形づくりだけでなく様々な領域の研究・臨床に数理モデルを活用できるようになると考えています。

用語解説

(※1) 数理モデル
生物学などの現象を数学的な式や方程式で表したものです。これにより、実際の観察結果を理論的な枠組みで理解しやすくなります。

(※2) CLIP(Contrastive Language-Image Pre-training)
画像とテキストを組み合わせて学習したAIモデルです。これにより、画像に写ったものを言葉の意味で理解することができます。

(※3) 潜在空間マッピング
データ(画像やテキストなど)を、人間には見えない数値空間に変換する手法です。これによって、似た特徴を持つもの同士が数値的に近い場所に配置されます。

(※4) NGBoost(Natural Gradient Boosting)
確率的な予測を可能にする機械学習手法です。これを使うと、「どれくらいの確信度で予測しているか」を推定できます。

(※5) 近似ベイズ推論
複雑な問題に対して、確率的な解を近似的に求める手法です。簡単に言えば、「不確実性を含んだ予測」を効率的に行うためのテクニックです。

(※6) Turingモデル
生物学的な模様がどうやってできるかを説明する数学的モデルです。アクチベーターとインヒビターという2種類の化学物質が広がり、反応し合う過程で自然とパターンが生まれる仕組みを示しています。

(※7) 基盤モデル
言語や画像など様々なデータを大量に学習して、幅広いタスクに応用できる汎用的なAIモデルです。これを使うことで、特定の問題に特化したモデルを作るよりも柔軟で強力な分析が可能になります。

詳細

本研究の詳細はこちらをご参照ください。

お問い合わせ先

医学研究院 三浦岳 教授

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