新規スピントロニクス材料の⼤⾯積成膜技術を開発

~⾼速動作スキルミオン及びスピンデバイスの基盤技術~

ポイント

・⾼速制御可能なスピントロニクス材料の⼤⾯積作製⼿法を開発。
・ツリウム鉄ガーネット薄膜をオンアクシススパッタリング法により作製する際、スパッタ原⼦の広がり⾓の違いが薄膜の磁気異⽅性を変化させることを解明した。
・⾼速磁壁移動デバイスおよびスキルミオンデバイスへの応⽤に期待。

概要

 2012 年に⽇本で発⾒された絶縁体の垂直磁化膜(※1)であるツリウム鉄ガーネット(TmIG)は、⾼速磁壁移動およびスキルミオン(※2)の輸送が可能のため、新たなメモリー、およびコンピューターを実現する材料として注⽬を集めています。従来はパルスレーザー堆積法が⼀般的に⽤いられており、オンアクシススパッタリング(※3)による⼤⾯積での作製が難しいと考えられていました。
 九州⼤学⼤学院システム情報科学府のMarlis Nurut Agusutrisno さん、システム情報科学研究院の⼭下尚⼈助教、University of Leeds のChristopher Marrows 教授らの国際共同研究グループは、オンアクシススパッタリングにより、TmIG の垂直磁化膜を作製することに成功しました。この⼿法は⼤⾯積の太陽光パネルや液晶ディスプレイ⽤の電極作製に⽤いられており、産業応⽤上重要な⼤⾯積の薄膜を作製することができます。
 オンアクシススパッタリングの場合、成膜中に⾼エネルギーのイオンが膜に衝突するため、磁気特性が劣化すると考えられていました。しかし、当該共同研究グループは実験による試⾏錯誤を重ねた結果、垂直磁気異⽅性を有するTmIG 薄膜を実証しました。さらに、画像解析を含む最先端の磁気特性評価を⾏い、従来⼿法で作製した場合と同程度の特性を持つことを確認しました。
 TmIG を⽤いた⾼速動作磁壁移動デバイスおよびスキルミオンデバイスの産業応⽤に向けて、その量産可能性を⽰す結果です。
 本研究成果は「Thin Solid Films」誌に2023 年12 ⽉15 ⽇(現地時間)にオンライン掲載されました。

用語解説

(※1) 垂直磁化膜
薄膜の膜厚⽅向に磁化しやすい性質を持つ強磁性体の薄膜のこと。メモリーやコンピューティングデバイスの集積化のために必要な特性の⼀つです。
(※2)スキルミオン
電⼦スピンの渦構造からなる準粒⼦のこと。微弱電流により動かすことができるため、新しい情報担体としての応⽤が期待されています。
(※3) オンアクシススパッタリング
半導体デバイスやスピントロニクスデバイスの作製に⼀般的に⽤いられる⽅法で、⼤型の液晶ディスプレイや太陽光パネル⽣産にも⽤いられます。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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