放牧飼育における母牛-仔牛の腸内細菌の伝播と因果構造

農学研究院
髙橋秀之准教授

仔牛の腸内細菌叢の機能的自立に与える環境諸要因の計算科学的理解

ポイント

・母子間の腸内細菌叢の関係性はこれまで閉鎖系の研究が中心であるが、畜産経営においては開放系の放牧飼育環境条件下の評価系における知見が必要です。
・放牧飼育管理条件において、母牛の腸内細菌群は、離乳前の仔牛よりも離乳後の仔牛の腸内細菌叢の構造に強く影響を与えうる可能性が示されました。
・母牛-仔牛の腸内細菌叢の因果構造は、腸内の短鎖脂肪酸の産生にも影響を与えることが示されました。

概要

 九州大学大学院農学研究院の田口佑充大学院生(研究当時)、山野晴樹大学院生、髙橋秀之准教授らは、理化学研究所環境資源科学研究センターの黒谷篤之研究員(研究当時、現 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)農業情報研究センター 上級研究員)、菊地淳チームリーダー、理化学研究所生命医科学研究センターの宮本浩邦客員主管研究員、大野博司チームリーダーとの産学共同研究(千葉大発ベンチャー(株)サーマス・京葉ガスエナジーソリューション(株))によって、放牧飼育管理下の黒毛和種仔牛の母子の腸内細菌群の因果構造を計算科学的手法によって評価し、将来の飼養管理のヒントを見出すことに成功しました。
 母子の腸内細菌叢の関係性を評価する取り組みは、世界的に進められており、妊娠期における母牛の腸内細菌叢が、胎児の脳神経系や免疫系の発達に影響を与えること、出生後の疾病や肥満のリスクにも影響を及ぼすことが明らかになってきています。したがって、畜産経営においても、飼育管理上、母親の腸内細菌叢が重要であることが想定されていました。しかしながら、従来のモデル動物を用いた研究成果は、閉鎖系の飼育条件下で、かつ遺伝的に同系統の母子間を対象とした研究成果が中心であり、開放系の飼育管理下において遺伝的背景が異なる母子が共存する、通常の現場における影響は不明でした。そこで本研究では、異なる遺伝的背景を有する黒毛和種を用いて、放牧飼育管理条件下における母子間の腸内細菌叢の関係性を機械学習、因子分析、並びに因果推論(※1)によって詳細に評価しました。その結果、離乳前の仔牛よりも、むしろ離乳後の仔牛の糞中細菌叢が母牛の糞中細菌叢と強い関係性を有していました。また、糞中細菌群の中でも、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)とビィフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)が、仔牛の生産性・健全性に寄与する有機酸である短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)の増加に対して効果的であるとともに、離乳すること自体が重要であることが計算上、示されました。さらに、離乳期間における好熱菌プロバイオティクス(Caldibacillus hisashii, 国際寄託番号BP-863)の投与は、相乗的なプラスの効果がある可能性も併せて示されました。
 以上の研究成果は、言い換えれば、一般的に腸内細菌叢が不安定な離乳前よりも、離乳後の方が母牛の腸内細菌叢の影響が顕在化しやすく、さらに健全な仔牛の育成のために、母牛の腸内細菌叢の管理と離乳期間における適切なプロバイオティクスの投与の双方が重要である可能性を指摘しています。今後、放牧牛のみならず、畜産経営全般に関わる効率的な飼育管理手法、並びに母子の腸内細菌叢の関係性の理解につながることが期待されます。
 本研究成果は、計算科学で著名なノルウェーのResearch networksの取り組みを基盤として、Elsevierから出版されている国際学術誌「Computational and Structural Biotechnology Reports」に2024年8月15日(木)にオンライン掲載されました。

用語解説

(※1) 機械学習、因子分析、並びに因果推論
機械学習:経験からの学習により自動で改善するコンピュータアルゴリズム。教師なし機械学習と教師あり機械学習に分類される。
因子分析: 複数の因子群から探索的に因子間の関係性を評価する計算手法。
因果推論:実験・観察データから得られた情報を基に、データ間の因果効果を統計的に推定していく方法。

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農学研究院 髙橋 秀之 准教授

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