ミャンマーの在来品種からイネ害虫に対する新たな抵抗性遺伝子を発見

農学研究院
山形 悦透 准教授

虫に強いイネの品種改良が加速化

ポイント

・近い将来、加害力が強いイネ害虫が進化してくることで、従来の品種では太刀打ちできなくなると予想されています。そのため新規の抵抗性遺伝子を特定し、新しい品種に導入する必要がありました。
・今回、ミャンマー原産のイネ在来品種群を用いた分析からツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子GRH6の塩基配列を世界で初めて特定しました。GRH6遺伝子はツマグロヨコバイが師管液を吸汁する行動を抑制する効果を持つことを明らかにしました。
・ミャンマー国とその近隣諸国にて、在来品種を用いた新たな抵抗性品種の育成が加速化することが期待されます。

概要

 気候変動により洪水や干ばつ、病害虫の被害がさらに頻発すると予想されています。持続的な農業生産を行うため、在来品種などの未利用の遺伝資源から有用遺伝子を特定し、それらの遺伝子を導入した新しい品種の育成が期待されています。
 今回、ミャンマー原産のイネ在来品種群を用いた分析から、イネ重要害虫であるツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps Uhler)に対する抵抗性遺伝子GRH6の塩基配列を世界で初めて特定しました。GRH6遺伝子はツマグロヨコバイによる師管液の吸汁を抑制する効果を持つことを明らかにしました。
 研究グループはまずミャンマー国ジーンバンクから選んだ250系統のインドイネ型在来品種の全ゲノム配列を解読し、「多様性パネル(※1)」と呼ばれる集団を作成しました(Furuta et al. 2024)。
 九州大学大学院農学研究院の吉村名誉教授、安井教授、山形准教授、および生物資源環境科学府博士課程3年ミャンマー国出身のNang Moe Khamらの研究グループは、ゲノムワイド関連解析研究(GWAS)の手法を用いて、ツマグロヨコバイ抵抗性に関係しているゲノム領域を調べました。染色体4番の関連領域は既報のGRH6座と同じと考えられましたが、原因遺伝子は未解明でした。生物資源研究所(現農研機構)の松本博士らのグループが解読した塩基配列をもとに、九大のグループが遺伝子単離を行ったところ、GRH6は植物の病害虫抵抗性遺伝子において広範にみられるNBS-LRR遺伝子をコードし、ツマグロヨコバイの吸汁により発現が誘導されることを初めて見出しました。ミャンマー在来品種にはGRH6座には7つのハプロタイプが存在し、そのうちミャンマー南部沿岸地域に分布するHapGRH6Aが抵抗性に強く関連することを明らかにしました。
 これらの発見は在来品種を用いた新たな品種育成の計画に重要な情報を与えるものと考えられます。
 本研究成果は日本育種学会の英文誌「Breeding Science」に2024年8月23日(金)(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

世界規模で起こる気候環境の変化や病原菌や昆虫の出現に対応し、安定した食料生産を実現するためには、国境を越えて遺伝資源を共有し、協働で品種育成の土台を作ることが重要です。遺伝資源の重要性を幅広くご理解いただくとともに、有用遺伝子を導入した新品種の育成に多くの方々と協力してつなげていきたいです。

用語解説

(※1) 多様性パネル
 特定の遺伝的なグループを代表する個体や系統群で構成された集団であり、集団を構成するメンバーが持つ一塩基多型や挿入欠失多型などの遺伝子型情報が網羅的に解読され、データベース化されたもの。

お問い合わせ先

農学研究院 山形 悦透 准教授

詳細

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