遺伝子の働きが教えてくれたサクラの”季節感”

寒さで目覚めるのはいつ?

理学研究院
佐竹 暁子 教授

ポイント

・サクラのつぼみが休眠から目覚める時期は肉眼では観察できないが、なにか手がかりがあれば開花予測の精度が上がる
・DAM遺伝子(※1)の働きに着目してサクラのつぼみが目覚めるタイミングを予測する初のモデルを構築
・地球温暖化がサクラの開花に与える影響を予測、今後の予測精度の向上に期待

概要

 近年のサクラの開花が早まる傾向は、気候変動による気温の上昇が原因とされています。サクラが春に開花するためには、冬季に花芽が十分な低温にさらされて休眠から目覚めた後、一定の高温を経験する必要があります。そのため、暖冬では花芽の目覚めが遅れますが、その後の気温が十分に高いため早く開花します。もし目覚めのタイミングがわかれば、開花予測の精度が向上すると期待されます。しかし、芽の休眠と目覚めの状態は肉眼では観察できません。
 日本学術振興会 特別研究員PDの桑門温子と九州大学大学院 理学研究院の佐竹暁子教授、森林総合研究所の韓慶民および北村系子らの研究グループは、ソメイヨシノが休眠から目覚めるタイミングを予測するために、休眠から目覚める鍵となる遺伝子の働きに着目した初のモデルを提案しました。さまざまな遺伝子を解析することにより、札幌・つくば・福岡のサクラの”季節感”を捉えるとともに、気象庁の気温データを用いて1952年から2022年の3地域の休眠打破のタイミングを予測しました。
 今後はこの予測モデルの精度を向上させ、地球温暖化が生態系に与える影響の予測に役立てるとともに、休眠打破の時期からサクラの開花時期をより正確に予測できるようになると期待されます。
 本研究成果は英国の雑誌「Plants, People, Planet」に2024年9月19日(木)午後6時(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

 サクラの開花予測は、開花日や環境データを軸に行われてきました。技術の進歩により、植物の遺伝子全体の動きを捉えることができるようになりました。これによってカレンダーがないのに、植物が季節の移り変わりをどう感じ取っているのかを垣間見ることできます。本研究ではこの技術を利用して、サクラのつぼみが休眠から目覚める時期を推定しました。

用語解説

(※1) DORMANCY-Associated MADS-box(DAM)遺伝子
芽の休眠および休眠打破に関連するキー遺伝子。DAM1-6の6つの遺伝子が報告されている。サクラ、ウメ、モモ、リンゴ、ナシやアンズなどの多くの多年生果樹種で同定され、広く研究されている。この遺伝子の発現レベルが閾値以下に下がると、休眠から目覚める。

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理学研究院 佐竹 暁子 教授

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