小惑星リュウグウが宇宙と実験室で違って見えるのはなぜ?

~「宇宙風化」が水のしるしを隠す~

ポイント

・小惑星リュウグウの採取試料の測定データと探査機「はやぶさ2」の観測データを直接比較
・水の有無を知る鍵となる「OH吸収」が、観測データでは測定データの半分よりも弱いことが判明
・その原因は大気のないリュウグウ表面が宇宙線や宇宙塵にさらされて変質(宇宙風化)したこと

概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地質情報研究部門リモートセンシング研究グループ 松岡 萌 研究員・デジタルアーキテクチャ研究センター 地理空間サービス研究チーム 神山 徹 研究チーム長は、東北大学大学院理学研究科地学専攻 中村 智樹 教授、天野 香菜 学術振興会特別研究員(地学専攻・博士課程後期)、日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という)物質科学研究センター 階層構造研究グループ 大澤 崇人 研究主幹、東京大学大学院理学系研究科附属宇宙惑星科学機構/地球惑星科学専攻 橘 省吾 教授、九州大学 理学研究院 地球惑星科学部門 奈良岡 浩 教授・岡崎 隆司 准教授などと共同で、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの表面を上空から観測したデータと、リュウグウで採取して持ち帰った(サンプルリターン)試料を地球大気にさらさずに測定したデータの直接比較を行いました。その結果、リュウグウ表面の観測データと、採取試料の測定データはよく一致する一方で、水の有無を知る鍵となるヒドロキシ基(-OH)による吸収に明らかな違いがあることがわかりました。この違いの原因を明らかにするため、リュウグウに似て含水ケイ酸塩に富む始原的な隕石の実験およびデータ解析を行った結果、リュウグウは宇宙線や宇宙塵にさらされて表面(1/100 mm程度)が変質し(宇宙風化作用)、水が部分的に失われていることを明らかにしました。本研究成果は、探査機からの遠隔観測と採取試料分析を組み合わせて初めて明らかにできたものであり、惑星探査におけるサンプルリターンの重要性を示す画期的な成果の一つと言えます。なお、研究の詳細は2023年9月27日(日本時間)に「Communications Earth & Environment」に掲載されました。

用語解説

小惑星探査機「はやぶさ2」
小惑星探査機「はやぶさ」の後継機として、小惑星からの試料を持ち帰ったJAXAの小惑星探査機。地球の海の水の起源や生命の原材料の探求を目的として、有機物や水を含む始原的な小惑星であるリュウグウの探査と試料採取を行った。地球へサンプルを帰還させた後は拡張ミッション(はやぶさ2#)へ移行し、次のターゲット天体(小惑星2001 CC21および小惑星1998 KY26)へ向けて現在も航行を続けている。

小惑星リュウグウ
小惑星は、主に火星と木星の間に分布する小惑星帯で太陽の周りを公転する天体のうち、惑星と準惑星およびそれらの衛星を除く小天体の一つ。リュウグウは地球に近い軌道を持つ近地球型小惑星に分類される。

詳細

詳細は、プレスリリースをご参照ください。

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