~有機半導体などに利用されるアセンの新しい合成法として期待~
ポイント
・ベンゼン環が連なった構造をもつアセン(※1)は有機半導体などの有機電子材料として有用だが、合成法が限られている。
・3枚羽根のプロペラ型分子であるトリプチセンを酸と混ぜるだけで、その羽根の継ぎ目を1か所だけ外す反応を発見し、これをアセンの合成へと利用することに成功した。
・トリプチセンがアセンの原料として有用であることがわかり、本法が様々な置換基を持たせたアセンの合成に有効活用されると期待できる。
概要
アセンはベンゼン環が連なった構造をもつ芳香族化合物で、有機半導体や色素などの有機電子材料としての有用性が注目されています。しかし、これらは一般に不安定な分子であることから合成が難しく、入手法が限られています。そのため、安定な前駆体(原料)および簡単な合成法の開発が求められてきました。
九州大学先導物質化学研究所の新藤充教授、岩田隆幸助教、同大学大学院総合理工学府修士課程の川野隆生大学院生、深見拓人大学院生(当時)の研究グループは、ベンゼン環を3枚羽根としたプロペラ型分子であるトリプチセンを酸と混ぜるだけで、3つある羽根のうち1つの継ぎ目だけを外す反応を見つけ、これをアセンの合成へと応用することに成功しました。トリプチセンは機能材料の部品としてよく使われていますが、従来ではその歪んだ分子骨格を「解体」したり、別の骨格に変換したりする有用な方法は知られていませんでした。今回発見した反応を用いると、トリプチセンをアセンへと変換可能なアントロン誘導体へと効率的に導けます。そこで、羽根にナフタレン環をもつトリプチセンを開いた後、さらなる変換を行うことでテトラセンというベンゼン環が4枚連なったアセンを合成しました。
本研究から、トリプチセンがアセンの原料として有用であることがわかりました。そのため、機能性置換基を持つトリプチセンを合成できれば、簡単に機能性アセンに導けるようになります。近い将来、様々な置換基を持たせたアセンの合成に有効活用されるものと期待できます。
本研究成果は2022年2月3日にヨーロッパ化学会(Chemistry Europe)の国際誌であるChemistry – A European Journalにオンライン掲載されるとともに、表紙に採用されました。
用語解説
(※1) アセン
アセンはベンゼン環が直線上に連なった多環芳香族分子である。二環性のナフタレンをはじめとして、三環性のアントラセン、四環性のテトラセン、五環性のペンタセンなどがある。これらは優れた電気特性から有機半導体として注目されており、有機太陽電池や有機EL等への応用が盛んに検討されている。
詳細
九州大学プレスリリースをご参照ください。