特別に計算された四面体で綺麗に回り続ける新しいカライドサイクルを発見

現代数学と折紙から生まれた新しい機構「メビウス・カライドサイクル」(特許取得)

ポイント

・現代数学と折紙の融合で新しいリンク機構(※1)のデザインを発見。
・世界で初めて「劣決定(※2)な1自由度(※3)環状リンク機構」の開発に成功し、数学的なアイディアでは珍しい特許を取得(特許第7261490号)。
・ミキサーやスクリューから、機能性分子や宇宙構造物まで幅広い応用に期待。

概要

 カライドサイクル(※4)という折り紙は、6つの合同な四面体が数珠繋ぎに輪をなして連なったもので、イルカのバブルリングのようにクルクルと無限に回すことができます。四面体の個数を増やすこともできますが、個数が増えるにつれて、たわみやすく動きが不安定になり、うまく回すことが難しくなります。ところが不思議なことに、7つ以上の場合でも特別に計算された四面体を使うと、たわむことなく綺麗に回ることが発見されました。この新しいカライドサイクルは、裏表のない帯であるメビウスの帯(※5)と同じ繋がりのかたちを持つため、「メビウス・カライドサイクル」と名付けました。
 ただの子供のおもちゃの話にも聞こえるカライドサイクルですが、その応用のポテンシャルも学術的な意義も侮れません。カライドサイクルは、パンタグラフやワイパー、折り畳み機構などと同じく、リンク機構と呼ばれるものの一種ですが、リンク機構の動きを解析したり設計したりすることは、数学と工学の分野で長らく研究されている難しい問題の一つです。特に、劣決定と呼ばれる性質を持つリンク機構の解析は難しく、これまで劣決定でぴったり1次元自由度の動きを持つ本質的な機構は知られていませんでした。
 九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の鍛冶静雄教授は、共同研究者らとカライドサイクルの構造を数学的に解析する研究を行い、環状のリンク機構を離散的な曲線として定式化することにより、メビウス・カライドサイクルの構成に成功しました。メビウス・カライドサイクルは1次元自由度を持つ初の劣決定リンク機構であることに加えて、回転時に弾性エネルギーが一定である(※6)こと、角運動量を与えることなく向きを変えられる(※7)などの特別な性質を持ちます。この発見を2018年2月に特許出願し、2023年4月12日に特許を取得しました。
 メビウス・カライドサイクルの持つ特別な性質は、折り紙だけでなく、一定の角度で捩れながらヒンジ(蝶番)によって連なった機構が等しく持つ幾何的性質なので、材質にもヒンジ間をつなぐ剛体の形状にも依存しません。目に見える大きさであれば、スクリューや攪拌機、ミクロの世界では高分子、大きなものでは宇宙アンテナなど、さまざまなスケールでの応用の可能性を持っています。
 また、メビウス・カライドサイクルは応用上の有用性だけでなく、数学的対象としても重要であることが分かってきました。その動きは、物理に起源を持つ可積分系と呼ばれる特別な微分方程式で記述されます。一方で頂点の座標は連立二次方程式で表される実代数多様体という図形になっています。帯としてのねじれの数や自分自身との絡まり方は結び目理論を用いて記述されます。このようにメビウス・カライドサイクルは、現代数学のいくつもの分野を繋ぐ交差点の役割を果たすと同時に、それら抽象的な数学概念が、手で触れることのできる形で具現化した稀有な存在でもあります。日本の遊びである折り紙を通して、美しい数学を万華鏡(カライドスコープ)のように見せてくるカライドサイクル、その研究から新たな数学が生まれることが期待されます。

用語解説

(※1)リンク機構:いくつかの剛体が関節を稼働部として連なった装置・からくり。ロボットアームや掘削機などの重機から、車のサスペンションなど身の回りの至る所で活躍している。ジェームズ・ワットの機構は、蒸気によるピストン運動を車輪の回転運動に変換するのに使われ、効率よく機関車を走らせることを可能とした。
(※2)劣決定:全関節の持つ自由度の和と、剛体による動きの制約から見積もられる自由度よりも実際の自由度が小さいリンク機構。
(※3)自由度:機構が何通りの動きができるかを表す数。1自由度のものは、決まった通りの動きを進めるか戻るかしかしないため、たわんだりがたついたりせず、制御性やエネルギー効率に優れる。
(※4)カライドサイクル:「M.C. エッシャー カライドサイクル」という本で広まった動く折り紙。その本では、回すことで次々と現れる四面体の面にエッシャー作品がプリントされている。
(※5)メビウスの帯・メビウスの輪:長方形の細長い紙の両端を奇数回捻って貼り合わせて得られる帯。輪にそって一周すると裏側に到達するため、表裏の区別がつかない。リサイクルマークやエッシャーの版画のモチーフとしても用いられている。
(※6)ヒンジを巻バネで実現すると、曲げ角に応じて力がかかる。このバネが戻ろうとするエネルギーは、くるくる回転の間、個々のヒンジでは上下するが、全体では一定になり、これは理想的な状況では力を加えずに回せることを意味する。
(※7)角運動量を持たない剛体は向きを変えることができないため、猫が空中で向きを変えて着地ができるのは何故かという問題は長きにわたって物理学者の興味を集めた。今日ではこのような動きは猫ひねり動作と呼ばれる。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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