〜 数理モデルに基づいた隔離戦略の提案 〜
ポイント
・いまだ感染性のある新型コロナウイルス感染者の隔離を終了してしまう確率(不完全な隔離終了確率:リスク)が計算可能になった。
・すでに感染性を失っている新型コロナウイルス感染者を不要に隔離してしまう期間(不要な隔離期間:負担)が計算可能になった。
・PCRテストが十分にできるかなど状況に応じて、隔離に関わるリスクと負担を同時に抑えるための適切な隔離戦略を数理モデルに基づいて提案できるようになった。
概要
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科(研究当時:九州大学)の岩見 真吾 教授、Jeong Yong Dam(チョン ヨン ダム) 研究員らの研究グループは、米国インディアナ大学の江島 啓介 助教との共同研究で、新型コロナウイルス(COVID-19)感染者の隔離を終了するタイミングを検証するためのシミュレータ(シミュレーションのためのソフトウエア)を新たに開発しました。
これにより、限られた予算や人員、資源を考慮しつつ、柔軟で安全な隔離戦略が提案できるようになります。
感染者隔離は感染拡大を防ぐ重要な手段です。長期にわたる隔離は二次感染のリスクを下げる一方で、隔離される人やそれを支える社会も様々な負担を被ります。よって、COVID-19の感染症対策では、隔離に関わるリスクと負担のバランスを考慮した適切な隔離ガイドラインが求められています
研究グループは、COVID-19感染者の臨床データと数理モデルに基づいて、感染者の隔離を終了するタイミングを検証するためのシミュレータを開発しました。これにより、“感染性のある患者の隔離を(早く)終了してしまうリスク”と“感染性を失った患者を不要に隔離してしまう期間(隔離に関わる負担)”の計算に成功しました。この結果、リスクと負担を同時に抑えるための個人差を考慮した適切な隔離戦略を、PCRテストが十分にできるかなどの状況に応じて提案できるようになりました。
現在、臨床・疫学データや経験則に基づいた異なる隔離基準が国ごとに採用されている状況に対して、本研究は、数理モデルに基づいた柔軟な隔離ガイドラインの確立に貢献できると期待されます。
本研究成果は、2021年7月27日16時(日本時間)付国際学術雑誌「eLife」に掲載されました。
用語解説
注 1)固定期間法:
感染者を固定された期間だけ隔離する方法。
注 2)PCR テスト法:
PCRで計測できる個々の感染者のウイルス量が閾値を下回るまで隔離する方法。
詳細
九州大学プレスリリースをご参照ください。