ヒトiPS細胞由来ミクログリアの完全非侵襲的な脳移植法の開発に成功

~脳疾患の病因解明と新規細胞治療法に期待~

 山梨大学医学部薬理学、山梨GLIAセンター 小泉修一教授及びパラジュリ ビージェイ特任助教らのグループは、ミクログリア[1]と呼ばれる脳細胞を完全非侵襲的に脳に移植して新しいミクログリアと入れ替える経鼻移植法[2]を開発しました。塩野義製薬株式会社、九州大学大学院医学研究院 中島欽一教授らが協力しました。またヒトiPS細胞[3]から効率良くミクログリア(iPSMG)を作る方法を開発し、このiPSMGを本技術を使ってマウス脳内に移植することで、ミクログリアがヒト細胞に置き替わったヒト化マウス[4]の作製に成功しました。
 ミクログリアは疾患の超早期、また老化の初期段階で環境変化を感知・反応する脳細胞で、様々な疾患の発症や進行、さらにエイジングによる脳機能低下に大きく関係するとして非常に注目されています。しかしこれまでの多くの研究はマウス等げっ歯類ならびにそのミクログリアを用いた研究で、ヒトのミクログリアが実際の脳内でどのような働きをし、どのように疾患や老化を制御しているのかについては明らかになっていません。本研究により、ミクログリアが関係する種々の脳疾患、老化の仕組みがヒトミクログリアを使ったin vivo研究(生体と同様環境下での研究)によって明らかになること、さらにはミクログリア移植による新しい「細胞治療法[5]」が開発されることが期待されます。本研究成果は、医学雑誌GLIAに英文原著論文が掲載されますが、2021年7月27日掲載に先だってオンライン版として先行発表されました(Online ahead of print)。

用語解説

[1] ミクログリア
グリア細胞の1種で脳内では唯一の免疫担当細胞です。脳内・脳外の環境変化に非常に敏感で、それらを感知すると即座に大きく変化して、病気の発症や進行を先導する役割を果たしています。自然免疫細胞として、炎症応答、不要細胞や断片の除去等に加えて、シナプス再編等による神経回路の再構築等でも重要な役割を果たしています。
[2] 経鼻移植法
経鼻移植法は、従来の外科手術による方法とは大きく異なり、鼻腔から細胞を脳に届ける最新で完全非侵襲的な細胞移植法です。鼻腔内に細胞を静置するだけで、細胞は篩板という構造を介して脳内に進入することが出来ます。安全、安定的、さらに簡便な移植方法ですが、移植効率が高くないので、大量の移植用細胞を準備する必要があります。
[3] iPS細胞
山中伸弥教授が見いだした多能性幹細胞。皮膚等の体細胞に、特殊な少数の因子を導入し培養すると、それらの細胞は初期化し、様々な組織や臓器に分化する能力、無限に増殖する能力を獲得した多能性幹細胞に変化することが出来ます。これがiPS細胞です。再生治療や疾患解明の切り札になる細胞として期待されています。
[4] ヒト化マウス
マウスの遺伝子、細胞、組織の一部がヒトのそれらに置き換わったマウスのこと。今回の例では、マウスの脳内に、ヒトの細胞(ミクログリア;iPSMG)を定着させた細胞レベルでのヒト化マウス。
[5] 細胞治療法
自身(或いは他者)の細胞を体外で培養・増殖させ、再度体内に戻して疾患を治療する最新の治療法。細胞そのものを補充するために行う場合もありますが、培養時に鍛えられた細胞が、様々な分子を産生することで、身体の修復機能や自己治癒力を高めることで治療効果を発揮と考えられています。免疫細胞や間葉系幹細胞を用いた治療法が既に行われています。

詳細

プレスリリースをご参照ください。

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