~ 四肢欠損治療技術開発への光明となる可能性大 ~
ポイント
・非四肢細胞に四肢前駆細胞の性質を付与できるリプログラミング因子群を同定
・これらの因子群は四肢発生過程においても、四肢前駆細胞特定化の役割を担う可能性が高い
・非四肢細胞から四肢前駆細胞様の細胞を生み出せるため、四肢再生医療への応用も見通せる
概要
私たちの手足(四肢)は胚発生期において側板中胚葉という組織に由来します。側板中胚葉の一部が四肢前駆細胞(Limb Progenitor Cell, 以下「LPC」)と呼ばれる細胞となり、そのLPCは胚発生後期に骨、軟骨、腱などの結合組織といった四肢の主要組織を形成します。四肢原基である肢芽は発生生物学研究の実験モデルとして長らく用いられてきたため、これまで多数の肢芽形成関連遺伝子が見出されてきましたが、側板中胚葉に初めに“LPCらしさ”をもたらす遺伝子の実体は未だ明らかではありません。
九州大学大学院理学研究院の熱田勇士講師(元・ハーバード医科大学研究員)、ハーバード医科大学遺伝学研究科のClifford Tabin教授らの研究グループは、LPCを産み出すリプログラミング法の確立を通して、側板中胚葉でLPCを特定化する因子の同定を試みました。まず初期肢芽形成領域でのみ働く遺伝子群をリプログラム因子の候補としてリスト化しました。その後、それらの遺伝子の中で、四肢由来ではない細胞にLPCに特徴的なマーカー遺伝子の発現を促すものが含まれるかを調べたところ、転写因子Prdm16、Zbtb16とRNA結合因子であるLin28aを組み合わせて使用すると、LPCマーカー遺伝子群の発現が誘導されることがわかりました。このコンビネーションをそれぞれの頭文字からPZLとし、マーカー遺伝子の発現が誘導された細胞をrLPC(reprogrammed Limb Progenitor-like Cell)と命名しました。さらにrLPCはその遺伝子発現プロファイルのみならず、内在性のLPCと同様の分化能(骨や軟骨の形成能)を持つことが明らかになりました。これらに加え、E3ユビキチンリガーゼの一種であるLin41をPZLに追加すると、rLPCのリプログラミング効率が上昇することも示されました。以上の結果は、本来の四肢発生過程においても、これらリプログラミング因子群が、側板中胚葉に四肢前駆細胞性を与える特定化因子として働くことを強く示唆します。また、リプログラミングによりLPC様の細胞をつくることに世界に先駆けて成功しました。
本研究成果は国際学術誌「Developmental Cell」に2024年2月5日(現地時間)にオンライン掲載されました。
用語解説
(※1) 側板中胚葉・・・脊椎動物の初期胚において体軸中心部からやや側方に存在する中胚葉。
(※2) 転写因子・・・DNAの特定の配列に結合し、遺伝子の発現を制御するタンパク質。
(※3) Prdm16, Zbtb16・・・それぞれ転写因子の一種。
(※4) Lin28a・・・マイクロRNAと呼ばれる小さなRNA分子に結合することで、マイクロRNAの生合成を抑制するタンパク質。
(※5) Lin41・・・E3ユビキチンリガーゼ。分解されるべきタンパク質にユビキチン化修飾を施す。
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詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。